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MITSUBISHI MOTORS

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※お客様より「ナンバープレートも年月を感じる大切なシンボルなので掲載して欲しい」とのお申し出をいただき、ナンバーを掲載させて頂いております。

44年前の昔と今

 この約半世紀のクルマの進化には著しいものがあったが、日本では、同時に道路の整備も急速に進んだ。その結果が、現代だ。
 三菱ミニカ360に、新車から44年28万3000キロも乗り続けている細倉富美夫さん(66歳)に話しをうかがって想像できたのは、そのことだ。
もちろん、ミニカの存在は知っていたし、どこかで見ているはずだけれども、細倉さんのお宅の車庫で対面したミニカ360には、目を奪われてしまった。

3ボックス型の乗用車然としたボディは、小さいのに、この頃のトレンドのテールフィンをまとっていて、時代を物語っている。軽自動車なのに、フォーマル感さえ漂っている。
 白いボディのところどころは、細倉さん自らが筆を執って塗装し直した跡が残っている。

「息子には、“ちゃんと、プロに頼みなよ”って言われているんですけど、ついつい自分でやっちゃうんですよね」
 後ろのナンバープレートなどは、磨いているうちに緑色の地色が出てきてしまっている。こんなに磨かれたナンバープレートを見たことがない。それに、ナンバープレートの下地が緑色だなんて、全然知らなかった。夢中になってシャッターを切りながらも、ナンバープレートを掲載して構わないかどうかを細倉さんに訊ねなければならない。
「このプレートもミニカの一部なので、このまま載せて下さい」
 たしかにその通りだ。ナンバープレートもボディの一部に溶け込んでしまっている。
「やっぱり、人に頼むより、自分でキレイにしてやりたくなっちゃうんですよ」

 細倉さんのミニカ360は、博物館に陳列されているようなクルマのようにピカピカというわけではない。しかし、長く乗り継ぐ間に発生した、塗装のサビやヒビなどをひとつずつ取り除き、筆やハケなどを手に取って塗ってきた姿には、ミニカ360への愛着が溢れ出ているのだ。

 助手席に座らせてもらい、近くの海岸公園まで走ってもらった。車内は広くないが、シンプルなので窮屈には感じない。窓ガラスやボディパネルが直立に近いので、むしろ開放感を感じるくらいだ。

 ポコポコポコッと聞こえるエンジン音も軽快に、細倉さんはステアリングコラムから左横に生えたシフトレバーを巧みに操り、2速3速と、逆に3速2速と入れ替えながら、ミニカ360を走らせる。クルマの製造年代とサイズがスピードとシンクロして、時速40キロくらいで流しているのが心地よい。

 細倉さんは、郵便局員として働いて貯めた給料24万8000円で、静岡市の三菱ディーラーからミニカ360を購入した。その頃、同じように初めてクルマを買う同僚たちも多かったが、ミニカ360を選んだ人は他にいなかった。選んだのには理由があった。後ろヒンジドアだ。
 後ろヒンジドアは前方に大きく開くから、足が不自由でヒザが途中までしか曲がらなかった母親が乗り降りしやすかったから、若き日の細倉さんは迷うことなくミニカ360を選んだのだ。

 六人兄弟の末っ子で、可愛がられて育った。細倉さんも、両親によくなついていた。最初のドライブ旅行の行き先は、四国だった。父親が後席に乗り、母親を助手席に座らせて、往復一週間ぐらい掛けた。
 「3人と3人分の荷物を載せると、時速50キロ出すのが精一杯でしたが、それ以前に、国道でも大都市の周辺以外はまだ舗装されていませんでした。だから、もっと性能の高いクルマで走ったとしても、デコボコで狭くて、未舗装の当時の道路じゃ、大してスピードは出せなかったんですよ」

 それでも問題なかったのは、現在よりも交通量が少なかったからだ。渋滞もないから、クルマへの負担も少なかった。ミニカ360は空冷エンジンを搭載しているから、連続した高速走行や長い渋滞ではエンジンがオーバーヒートを起こしてしまう
 「オーバーヒート起こすと、エンジンの力がなくなっちゃいます。今は、浜松まで行けませんよ。目安ですか? 50キロぐらいですかね。それより遠くに行く時には、途中で30分ぐらい停まって、冷やさないと」

祖父が乗っていたミニカ

 海岸公園の駐車場から出る時、エンジンが一瞬で掛かった。現在のクルマからしてみれば当たり前のことだが、44年前の軽自動車は簡単にはいかない。町乗りでは5番、国道やバイパスなどを走る時は6番と、スパークプラグを使い分けているくらい、乗りっ放しにはできない。
「ラジオもクーラーも付いていないでしょ。だから、クルマへの負担が少ないから、いつも一発で掛かるんじゃないですかね」
 片側1車線の道で、後ろから来た軽ワンボックスが車間距離を詰めてきたのをミラーで見計らった細倉さんは、スッとミニカ360を半車身分だけ左に寄せて、先に行かせた。とても慣れた感じである。
「細い道だと、後ろに列ができちゃってね。フフフッ」

 お宅に戻ると、窪田洋一さんが来てくれていた。同じ静岡県内で1973年型のミニカ73(A101型)に乗る窪田さんは細倉さんの指南役だ。いつも車検に出していた東海三菱自動車販売から紹介された。窪田さんは三菱ディーラーでも知らないことまでミニカ360に関して精通しているので、ディーラーや愛好家たちから一目も二目も置かれている。
 細倉さんのミニカ360はブレーキマスターシリンダーのインナーキットのゴム部品がダメになって、ブレーキオイルを継ぎ足しながら走っていた。窪田さんは、汎用部品が適合することを現物合わせで調べて知っていたので、それを伝えて処置した。

 窪田さんのミニカは彼の祖父が乗っていたものだ。
「子供の頃は嫌でしてね。でも、嫌な反面、友達から“スゴい!”って驚かれると、ちょっと得意気な気持ちにもなっていました」
 それ以来、窪田さんは細倉さんから全幅の信頼を置かれるようになった。
 両親とのグランドツアーで、四国には2回行った。東北にも行った。
 圧巻は、鹿児島往復だ。ただし、鹿児島へは別のクルマで行った。
 お母さんの足がさらに曲がらなくなってしまったために、軽自動車のライトバンを、鹿児島行きのためだけに追加して購入したのだ。鹿児島往復は10日間掛けた。
前述の通り、昔はクルマも道も今と全然違うわけだから、早く走ろうとしても走れるわけではない。そもそも、景色のいいところでゆっくりしながらの観光が目的だったから、急ぐ必要もない。
 「クルマの旅は臨機応変に行動できるので、両親も喜んでくれました」

ミニカ君が、かわいそう

 やがて、孝行息子の細倉さんも結婚。
 「このクルマに乗って、婿入りしたんです」
 ミニカ360を購入した時の書類が丁寧に保存されていて、所有者である細倉さんの住所と苗字が現在のものとは異なっている。
 「妻はクルマ酔いしがちで、運転免許も持っていません。ミニカを気に入っていないので、あまり距離も延びていませんね。私がここに来た時には走行距離が20万キロを越えていましたから。もっぱらオートバイですよ」
 ホンダMD70という郵便配達用のバイクの払い下げを3台乗っている。結婚されたのが昭和48年だから、逆算すると6年間で20万キロもミニカ360を走らせていたことになる。

 妻の満紀子さんは、明るく、率直な方だ。
 「ミニカって、カタチが悪いでしょ。夫は結婚する前から、乗る時にはドアを開けてくれたりして優しかったんですけど、ミニカは見苦しかったわ。ハハハハハハッ」
 窪田さんが、助け船を出す。
「ミニカは、新車の時から、昔の社会主義国のクルマみたいで古臭く見えていたんです」
細倉さんは、諦め切ったように二人のやり取りをニコニコと聞いているだけだ。
「結婚したら、この人(満紀子さん)は私がミニカを止めると一方的に思い込んでいたんです」
「違いますよぉ。止めなくても、セカンドカーに水色のワーゲンを買ってくれると思っていたんです。私は、好んでこのクルマに乗ったことはないんですよ」

 そんな両親のやり取りを見ていた息子の和樹さんは、“ミニカ君が、かわいそう”とベソを掻き出す優しい子供だった。
「結婚式やお葬式にミニカに乗っていくと、私はもう恥ずかしくて恥ずかしくて。“お宅のクルマって、外車ですか?”って尋ねられたこともあったけど、返事に困っちゃいましたね」

 おノロケ半分の照れ隠しなのか、夫婦漫才を聞いているようだ。でも、満紀子さんも古いものを大切にすることに理解がある人で、居間の柱時計は32年前のものを使い続けている。
 「赤信号で停まって、隣の人からジロジロと見られるのが、とぉにかく恥ずかしくて。きっと、ケチ臭い人だって言われているんですから。えっ、古いクルマに乗るのがカッコいい!? ウソー、反対でしょう」
 窪田さんと僕は、一台のクルマを乗り続けることの素晴らしさが理解される時代になったことを満紀子さんに説明した。“カッコいい”と拍手されることはあっても、“ケチ臭い”と蔑まれるような時代じゃなくなったんですよ、安心して下さい。
「そうかなぁ」
 満紀子さんは、まだ半信半疑だったようだが、細倉さんはさっきと変わらずニコニコしている。その笑顔を見ていたら、ミニカ360が細倉さんの分身のように思えてきた。
「家族からは不平ばかり言われるけど、最後まで乗ろうかな、と。愛着があるんですよ」

 つねに後方を気づかって急ぐクルマは先に行かせ、オーバーヒートしそうになったら、休み休み走らなければならない。ラジオもクーラーも付いていない。そんな不便なクルマにもかかわらず細倉さんが44年も乗り続けてきたのは、ミニカ360が自分自身から切り離せない存在だからなのだろう。

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