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MITSUBISHI MOTORS

昭和レトロと平成生まれの若い仲間たち 鈴木正治さんと三菱ランサー・セレステ1600GSR(1975年型 39年7万7000km)

※お客様より了承を頂戴し、ナンバープレートを隠さず掲載させて頂いております。

昭和のレトロ博物館

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 僕のブログの常連読者Yさんからメッセージをもらった。

「私は山形県尾花沢市というところに住んでいますが、近くにセレステを新車から乗り続けているスゴい人がいます。他に、ミニカ・ダンガンも持っていて、家はまるで“昭和のレトロ博物館”のようで、とても面白いですよ。取材に来ませんか?」

 さっそく、鈴木正治さん(62歳)というセレステのオーナーに電話を掛けてみた。

「9月に入るとイベントが続いて忙しくなるから、その前だったらいつでもいいですよ」

 約束の日、新幹線に乗って尾花沢に向かった。駅を出ると、遠くの山々の稜線がはっきりと見える。雲ひとつなく、田畑の緑が眼に眩しい。

 タクシーに乗って行き先を告げたら、「ああ、あの面白い家ですね」と運転手は答えた。

 面白い家!?

 10分ぐらいで着いた。

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「こちらですね?」

 そう訊ねられても、僕は初めて訪問するのだからわからない。

 でも、絶対にここで間違いない。

 道路に面した家の壁にたくさんのホウロウ看板が飾り付けられ、蔵のような建物の中からセレステが顔を出していたからである。

「あ〜、カネコさん。いらっしゃ〜い」

 真っ黒に日焼けした顔をクシャクシャにしながら、鈴木さんは笑顔で迎えてくれた。僕の訪問を心から喜んでくれているような素敵な笑顔だ。

 ふだんは野菜や果物、米などを作りながら建設や土木作業を手伝い、重機を操縦しているというからここまで見事に日焼けしているのだろう。

 蔵の隣には車庫が建っていて、赤いミニカ・ダンガンが収まっていた。奥さんとお嬢さんが乗っていたものだ。母屋は大きく、庭が広い。庭には池があって、大きな鯉が何匹も悠々と泳いでいる。

 池の前には、小学校の運動会で使われるようなテントが張ってあって、テーブルや椅子が並べられている。それらの周りには、ミニカーやオモチャ、酒瓶などが無造作に置かれ、額装された写真がヨシズに掲げられている。

 ミニカ・ダンガンの収まっている車庫やセレステが顔を出している蔵にも、溢れそうになるほどたくさんのミニカーやオモチャ、雑貨の類いがある。

 勧められて蔵の2階に上がってみると、こちらにも鈴木さんのコレクションが一杯だった。たくさんのLPレコードや古本のような昔のものが多い。中には、実際に使われていた昭和十三年と墨で書かれた部厚い金銭出納帳もあった。Yさんの言うように、たしかに“昭和のレトロ博物館”だ。

 ミニカーやオモチャ、LPレコードに古本、その他の雑貨といろいろなモノが渾然となっている。何かひとつのテーマに基づいて収集が行われたというよりも、鈴木さんが気に入ったもの、気持ちに引っ掛かったものを捨てずに整頓して並べてあるといった感じだ。

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 タクシーの運転手が“面白い家”といった理由がわかった。これは、子供の頃に、駄菓子屋やオモチャ屋に行った時のワクワクした気持ちと一緒だ。ミニカーだけでも500〜600台はあるそうだ。

 ミニカーやオモチャ、民芸品、雑貨などのコレクションが高じて、最近、鈴木さんは近くにリサイクルショップを開店した。古い民家を少し改装して、その中に品物を並べてある。

16歳でミニカ・トラックに乗る

 テントの下のテーブルの上には、セレステと初代ランサーの大きなサイズのミニカーがそれぞれ透明ケースに入って重ねられている。

「スイカ、スイカ。食べて下さい」

 内容を再現するとこうなるけれども、耳で聞いた通りには再現できない。“スイカ”は“セカ”と聞こえてしまうし、“食べて下さい”は何と言っているのか聞き取れない。鈴木さんの笑顔と動作が伴っているから理解できるようなものだ。

「わがんねっか!? ハハハハハハッ」

 僕に話し掛けてくれる言葉はまだわかるけれども、鈴木さんと義弟さんの早口でのやり取りはまったくわからない。

 スイカは尾花沢の名産品だけあって、甘く美味しい。

「でも、今年は天候がいつもと違って、スイカの旬はもう過ぎてしまったんですよ。本当はもっと美味しい。こんなもんじゃないんです」

 義弟さんが説明してくれる。

 スイカにかぶりつきながら、鈴木さんにセレステを買おうと思ったキッカケから訊ねることにした。

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「最初は、16歳で軽(自動車)免許を取って、ミニカ・トラックに乗っていた。ギャランFTOに乗っていた友達が、このカタログを持ってきたんだ。“こういうクルマが出たってよ”って」

 その時のセレステのカタログを鈴木さんは今でも大切に取ってある。でも、何度も何度も見返しているから、折り目が破れ始めていて、ソッと持たないとふたつに分かれてしまう。

「一発で気に入った。カッコ良かったから」

 セレステのデザインとユーティリティを説明するページの余白には細字の万年筆で数字が記されている。何かの足し算と引き算が行われたようだ。

「クルマだけで98万円ぐらい。ローンを組んで110万円ぐらいだった」

 計算のメモ書きはローンの利息と毎月の支払額を確かめたものだ。当時の山形三菱自動車販売天童店から購入した。

5年間の空白

 あらためて鈴木さんのセレステを見せてもらうと、ユニークなドレスアップが施されている。

 まずは、ホイール。ボディカラーとコーディネートするべく、内側を黄色に塗装してある。ホワイトリボンタイヤのように見えるのはカバーだ。

 テールゲート上のルーバーはオリジナルパーツだが、ボディサイド左右のカバーは自分で赤く塗った。

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 左右のフロントフェンダーに張られたデカールや、フロントグリルに追加されたLEDのドライビングライトなどももちろんオリジナルではなく鈴木さんが付け加えたもの。

 黄色というボディカラー自体が目立つ色である上に、このホイールと赤いルーバー、デカールなどがそれに拍車を掛けている。セレステというクルマが今では貴重なものであるのに加えて、この出で立ちがさらにこのクルマの存在感を強烈なものにしている。

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 ドアを開けて車内に入っても、それは変わらない。ステアリングホイールには黄色の滑り止めカバーが巻かれているし、スピードメーターとタコメーターのフチには黄色いプラスチック板を切り抜いたアクセントが張られている。同様のものはシガーライターソケットにも反復されている。同じような黄色のスロットルペダルカバーも取り付けられている。

 オリジナル至上主義の人から見たら、鈴木さんのセレステへの接し方は噴飯物だろう。

 でも、鈴木さんはセレステを改造しているわけではない。自分なりの好みを付け加えているに過ぎない。そのセンスがユニークな上に、ユーモアを感じさせ、寛容なところが僕は好きになってしまった。

「そう。改造はしていない。ヒドく故障したこともない。一度、ボディを全塗装した。サビはなかったけど、日焼けしちゃったから」

 どうりでキレイなわけだ。

 所有期間の割に走行距離が少な目なことにも理由がある。

「雪がスゴく降るからな。3メートルは降る」

 だから、冬はセレステはずっと蔵にしまって、春が来るまで冬眠させている。

「ネけておくの」

 “寝かせておく”という意味だ。

 その間の生活の足は、最近は4輪駆動でスタッドレスタイヤを履いたミニバンだ。全部で6台ある。

 今までも同時に複数のクルマを所有しながら、乗り分けてきた。のべ17台になる。

「セレステは買ってから10年目ぐらいの時に登録を抹消した」

 それから5年間、乗らずに蔵にしまっておいた。 

「眺めているだけでもいいんだ」

 抹消と5年後の再登録の理由について、鈴木さんはあまり語ろうとしない。

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 僕のような街中に住んでいるほとんどの者からすれば、登録抹消したクルマのための保管場所を維持し続けることは難しいので、手放さざるを得ない。登録抹消したクルマを持ち続けている余裕はない。

「飽きたとか、そういうことじゃないんだ。この辺りじゃ、よくある話しだよ」

 保管場所に余裕があるからなのか、ワケがあって登録抹消したクルマを持ち続け、復活させる例がよくあるのだという。

若い仲間たち

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 しばらくして、Yさんと仲間たちがやって来た。みんな20歳台。鈴木さんの元に集まる原田旧車會の面々だ。自分の年齢よりも古いクルマに乗っている。鈴木さんのお嬢さんも友人を伴って遊びに来た。

 Yさんは、鈴木さんのことは古いクルマのイベントで見て知っていた。

「黄色のセレステの回りにセレステのミニカーやグッズを並べて展示していた鈴木さんは、イベントでも目立っていましたからね」

 鈴木さんは、持参したラジカセでセレステのテレビコマーシャルの曲を流していたりもした。

「もう、他の参加者たちとは鈴木さんはオーラが違っているので、なかなか話し掛けられませんでしたよ」

 状況が想像できる。

 しかし、共通の知り合いがいることがわかってからは親しく付き合うようになり、こうして仲間を連れて遊びに来たり、一緒に古いクルマのイベントに参加したりしている。

 中でも高畠町の旧車イベントは盛大で、4万人もの入場者があるという。

「ハンパでねぇよ」

 今年は鈴木さんたちは自分たちのクルマで会場とその周辺をパレードすることになっている。

 他にも、同じ山形県内の酒田市、寒河江市、遊佐町などでのイベントに参加する予定だ。

「イベントでは、知らない人とクルマのことで話ができるのが楽しいですね。どこかのお爺さんが僕のクルマをずっと見ていて、“懐かしいっ。このクルマの最初の持ち主は私です”って感極まって涙を流して喜んでくれたことがありました。こっちも涙が出そうになりましたよ」

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 Yさんは21歳。家業を手伝い、仲間と集うことを楽しんでいる。

「もうじき年取って、クルマを運転できなくなったら、セレステはYさんに譲って乗ってもらうことに決めているんだ。なっ!?」

 冗談交じりに聞こえるように鈴木さんは言うけれども、本気なのだろう。

 鈴木さんは、この連載に登場してもらった他のどの人にも似ていない。

 クルマの整備記録を丹念に記録したりするようなタイプとは正反対だし、頻繁に長距離を走ったりもしていない。自分流でセレステを39年間愛し続けている。そして、セレステを愛するのと同じかそれ以上に、慕ってくれる若者たちや家族や仲間を愛している。

 クルマだけを愛好するのではなく、クルマをひとつの媒介として人生を楽しんでいる。こうした楽しみ方こそ豊かなカーライフというのだろう。セレステのテレビCM音楽を流しながら展示しているというイベントに僕も一緒に参加してみたくなった。

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