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仲間たちとの絆が支えるギャランへの愛着 迫間秀元さんと三菱ギャランVR-4(1988年型)24年12万3000キロ

疲れる前に休め!

 一説によると、東日本大震災で消失したクルマの数は14万台以上と言われている。消失しないまでも、トラブルを被った台数を含めれば、その数は想像もしたくないほど膨大なものになるだろう。
 被災された方々には一日も早い復旧を願うばかりだが、修理するにせよ、次のクルマに乗り換えるにせよ、自動車保険の手続きを行わなければならない。被害者も忙しいが、保険会社も多忙を極めている。

 三菱ギャランVR-4に新車から24年12万3000km乗り続けている迫間(はざま)秀元さん(48歳)は、損保会社に勤務している。
 自分の担当範囲内に被災者はいなかったが、被災したクルマや建物、船舶などに関わる保険の処理を、今は会社全員で手分けして行っている。
「保険証券を津波で流されてしまった方々がたくさんいますから、被災地域の証券データをすべてプリントアウトして、担当者が契約者のもとを一軒一軒訊ね歩いて、"大丈夫でしたか?"と安否を確認する作業を続けています」
 損保会社でも、被害の全貌はまだ把握し切れていない。まだ、渦中にあるのだ。

 仕事柄、自動車事故の実例に多く接しているから、事故の悲惨さと重み、それゆえの安全運転の大切さを強く認識している。事故を起こそうと思って起こす人はいないのだが、不思議なことに起こす人は何度も起こすのに、起こさない人はまったく起こさないのだという。
 VR-4に乗り続けている話からは脱線してしまうのだが、とても有益な話を聞いたので、ぜひ読者のみなさんにもお伝えしたい。

「疲れたら休むのではなく、疲れる前に休んで下さい」
 カーナビの中には、「そろそろ運転2時間になります。休憩して下さい」などと話し掛けてくるものもあるが、これはお節介ではない。2時間は目安に過ぎない。個人差と体調があるので、疲れそうになる前に休むのが肝心だ。疲れてからじゃ遅いのである。
「事故は、圧倒的に走り慣れた道で起こることが多いんです」
 知らない道を走る時には、緊張していて、それが運転にもいい影響を与えている。
 長距離運転では、疲れる前に休む。自宅周辺や知っている道こそ慎重に。

「私やカネコさんのように、運転を始めて30年近くにもなると、知らず知らずのうちに自分のパターンのようなものができてしまっているものですから、気を付けたいですね」
 肉体が確実に衰えている自覚はあるのだが、そのことと事故を結び付けられているわけではない。用心しよう。

スキーヤーに理想の一台

 迫間さんのVR-4は、初めて買った新車だった。それまでにオートバイを4台、中古車を2台乗り継いでいた。ちょうどスキーに夢中になり出した頃だったので、乗用車タイプの4輪駆動車であるVR-4は、発表された時から注目していた。しかし、給料の良い損保会社に就職したとはいえ、まだ3年目。親に300万円借りて、購入した。いい時代だった。
 映画『私をスキーに連れてって』もヒットしていた、バブル絶頂、スキーブーム満開の頃である。関越自動車道や東北自動車道も首都圏から全通し、クルマでスキーに行くことが一般的になった。と同時に、VR-4のような乗用車タイプの4輪駆動車ならば、遠くのスキー場にも、途中の積雪状況などに左右されることなく、安全で快適で、その上、早く到着することができた。つまり、スキーヤーにとって、VR-4のようなクルマは理想の一台だった。

 迫間さんは、冬になるとVR-4にスタッドレスタイヤを履かせていたから、スキーに行くには無敵である。ジャラジャラジャラとチェーンの音を響かせながら路肩をゆっくりと進むクルマを快適に追い抜いていった。
「少なくても、シーズンに10日間は滑りに行っていました。菅平や志賀高原などが多かったですかね」
 今よりも除雪が行き届いていなかったから、チェーンを巻いては外しての繰り返しで、都内から菅平だったら6時間、志賀高原や八方尾根、野沢温泉などへは片道10時間を見込んでおかなければならなかった。

「雪道の安定感が、もう全然違っていました。積もった雪の上だろうと、凍結したアイスバーンの上だろうと、ちゃんとコントロールできながらスイスイ走れました。買って良かったと思いました」
 今でもよく憶えているのは、菅平へ行った時に、山の中の宿から下の酒屋へ買い出しに行った友人のクルマが上り坂を滑って上がれなくなった。携帯電話がなかった時代なので、酒屋の電話を借りて、宿の迫間さんに迎えに来て欲しいと救出要請の電話が掛かってきた。VR-4で迎えに行き、簡単に上って来れた時には優越感さえ感じてしまった。友人の前輪駆動車は酒屋の駐車場に一晩停めさせてもらった。

 埼玉県の浦和東三菱自動車で購入し、2002年に転勤で長崎に持っていった。
「意外に思われるかもしれませんが、長崎でもけっこう雪が降るんですよ」
 スキーだけでなく、雪の長崎でもVR-4は4輪駆動の威力を発揮して迫間さんを助けていた。5年間の長崎赴任を終え、再び、VR-4とともに首都圏に戻ってきた。この時点で、購入してから20年になろうとしていた。長く乗り続けたゆえに、あちこち消耗したり、不具合も発生するようになっていた。
「長崎から戻ってきて、家の近くの三菱ディーラーに行ってあれこれ相談したんですけど、そこは僕の話を聞く前に、新車への買い替えばかりを熱心に勧めてくるので、一度しか行っていません。そのかわりに素晴らしい三菱ディーラーさんと出会えましたので。」

ネット掲示板で情報交換

 困っていた時にインターネットで見付けたのが、「Galant's Room」の掲示板だった。ギャランに乗っている人同志の情報交換のために、小泉洋大さんが1996年に作った。小泉さんはその時ギャラン・ヴィエントに乗っていて、98年にVR-4を購入した。
「当時は、情報やパーツもあまりなかったので、掲示板を通じて情報交換ができればいいと始めました」

 その頃、迫間さんは、VR-4のブレーキに悩まされていた。4輪駆動の走行性能は素晴らしいのだが、ブレーキング能力がそれに追い付いていないように感じていたのだ。VR-4が不調なのか、それとも自分の感覚が他の人と違っているのか。だから、最初に掲示板に書き込んだのはブレーキに関してだった。
「VR-4オーナーの皆さん、ブレーキはどうですか?」
「そろそろ来ましたか」
 やっぱり、思った通りだった。掲示板の仲間の情報によると、「VR-4の前期型のブレーキ能力は低い」ということだった。だから、その情報を共有しているので、みんな中期型に換装していた。中期型は1ポッドから2ポッドに強化されていた。迫間さんも、それに倣って、中期型に入れ替えた。

 掲示板は「G-Force」というクラブに発展した。江東三菱自動車販売の江東店が、クラブの溜まり場のようなスぺースになった。迫間さんも、クラブのメンバーに紹介されて、この店に行くようになった。迫間さんだけではなくて、首都圏のメンバーのほとんど全員はこの店を頼りにしている。
「仕事柄いろいろなディーラーと接してきましたが、ここはユーザー本位の姿勢で対応してくれます」

 それを体現している例はいくつもあるのだが、迫間さんの最近の例を挙げると、昨年10月に発生した高速道路走行中のハンドルのブレ発生だ。
 ブレーキローターの偏摩耗が原因だということが判明し、迫間さんはローター交換を依頼した。しかし、当時のフロントの鈴木政一さんに反対された。
「交換したら、過剰整備になっちゃう。研磨して平滑にするだけで十分」
 その上、すぐに着手するのではなく、その前から予定していたブレーキホース交換と一緒に行って時間と費用を節約することを提案してくれた。

「修理するにしても、優先順位を見極めて取り組んでくれるから、とても助かります。時には、僕らでも出来る事は電話で指示して、自分たちで処置させることもあるんですよ」
 パワーステアリングベルトが切れ掛かって重くなってしまった時に、迫間さんが電話した。
「ニッパーでベルトを切り外して、乗ってきて。そのままだと、切れたベルトが巻き込んじゃうから」

絶大な信頼

 迫間さんをはじめ、G-Forceや居合わせた他のお客さんの、このディーラーへの信頼は絶大なものがある。讃える声が、どんどん出てくる。
「交換する必要のないパーツまでアッセンブリーで取り換えてしまうようなことはない」
「いくつも選択肢を提示してくれる」
「アフターマーケット用パーツが付いていても、法規に適合していれば何も言わない」
「こちらの希望によく耳を傾けてくれ、できることはやってくれて、できないことははっきりと断ってくれる」
「修理や整備の際に、節約できる方法を考えてくれる」

「千葉さんはクルマ好きだから、僕らの気持ちがわかっているんです」
 店長の千葉美伸さんは、今年5月に自分のパジェロジュニアで出場したトライアル競技「ザ・クラシックス・イン東北」で優勝したばかりだ。モータースポーツ歴は20数年になる。
「"お客さん目線"じゃないとね」
 迫間さんは、自分が24年間12万km乗り続けているのも、こうしたディーラーやクラブの人たちのおかげだと大いに感謝している。
「クラブも、最近ではクルマ以外の話をして盛り上がることが多いですね。コミュニティみたいなものです」
 コンピュータのことや、あるいは保険について訊ねられることもある。

 日曜日のディーラーには、クラブメンバーのVR-4の他にも、愛着を以て乗り続けられたギャランが何台も整備を受けていた。今となっては珍しいエテルナもあった。
 それにしても、ここのディーラーは独特だ。ショールームには最新のデリカD:2がディスプレイされていて全国変わらない三菱自動車のディーラーなのに、裏の整備場には古い三菱のクルマや他社のクルマまで停まっている。
「ウチは、どこの(メーカーの)クルマでも扱いますから」
 杓子定規でなく、柔軟な姿勢で運営されていることがよくわかる。客も、それを期待して来ている。古いクルマはコンディションが一台ずつ異なるから、ここのような取り組み方をしないと問題解決にはいたらないだろう。
 安全が確保されていることと法律に違反していないことが大前提となることは、僕が言うまでもない。

「定期的なメインテナンスと、何かあったらすぐにプロに相談することです」
 迫間さんは仲間とディーラーへの感謝の言葉を惜しまないが、自身でも日常から細やかな気遣いを忘れずにVR-4に接している。
「走り始める時は、必ず窓を開けるようにしています」
 異音や異臭を感じ取るためだ。ガソリンタンクの上面に開いたピンホールを突き止めたのも、匂いからだった。他にも、エアコンの不調やクラッチのジャダー、エキゾーストマニホールドのサビの穴からの排ガス漏れなど、なかなか完治しなかったトラブルもあった。
 根気よく試行錯誤しながらそれらを治しながら乗り続けているのは、迫間さんのVR-4への愛着の深さと仲間とディーラーの存在によるところが大きい。カーボンファイバー製ボンネットが、真夏の陽射しを鈍く照り返していた。

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