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ワンボックスは家族とともにあるクルマ 水川良宇さんと三菱デリカスペースギア(2004年型 8年12万6000km)

明るく清潔なショールーム


 待ち合わせ場所の西日本三菱自動車販売倉敷店のショールームを訪れると、受付の女性がセールス主任氏をマイクで呼び出してくれた。

 そのマイクは工場や別室のスピーカーにつながっていて大きな声で呼び出されるものだと思ったら、イヤホンと小型マイクが組み合わされたヘッドセットを耳に装着した主任氏が現れた。エアロビクスのインストラクターみたいだ。彼だけでなく、他のスタッフたちもみんな耳にヘッドセットをしている。
 店内が喧しくならない良いアイデアだなと感心していたら、もうひとつ珍しいところに気付いた。ショールーム内に、ノボリや垂れ幕の類が見当たらないのである。
 ノボリや垂れ幕がないと、ショールームがスッキリする。これなら外からクルマがよく見えて、どこのメーカーのショールームなのかがよくわかる。

 そのせいだけではないが、ショールーム全体が明るくキレイに見える。ヘッドセットを付けたスタッフの動きまでキビキビしているではないか。スーツ姿も清潔感にあふれている。こういう日本車メーカーのショールームは初めて見た。
 このショールームで、水川良宇さん(41歳)と待ち合わせていたのだ。水川さんは、2004年型の三菱デリカ・スペースギアに8年12万6000km乗り続けている。

 小雨が降り始めた入り口付近を振り返ると、白いデリカ・スペースギアがドアを開けて停まっていた。開け放たれた2列目シートには小さな女の子が座っていて、こっちを見ている。声を掛けてみると、やはり水川さんだった。
 隣に、他の来店客のシャリオグランディスが停まっていたから改めてよくわかったが、デリカ・スペースギアは背が高い。
白いボディに、真新しいタイヤが映えて見える。
 栞ちゃんは5歳。中学生のおネエちゃんとおニイちゃんがいる。
ショールーム内の子供の遊び場にまっしぐらだ。

2台目のデリカ

 水川さんのデリカ・スペースギアは、2台目だ。三菱レグナムを間に挟んで、
以前はディーゼルのデリカ・スペースギアに乗っていた。
どうしてまた、同じクルマに戻ってきたのだろうか。

「最初のスペースギアを買った決め手も、4輪駆動の走破性とワンボックスの居住性でした。
その頃は、スノーボードに夢中になっていましたから」

 仲間とスノボをスペースギアに乗せ、休日の前の晩に恩原高原や大山などに出掛けて、スキー場の駐車場で仮眠して滑って帰ってくるということを、20代から30代に掛けて毎シーズン15回から20回は繰り返していた。そういう乗り方をするのに、スペースギアはぴったりだった。

「当時の僕の乗り方に、スペースギアは唯一無二の存在で他のクルマと一切迷うことなく手に入れました」

 世間でも、スキーブームと騒がれていた頃のことだ。リフトが動き出す前からスキー場の駐車場には背の高いデリカ・スペースギアンがたくさん停まっていたのをよく憶えている。

「18歳で運転免許を取った時には国産のスポーツクーペに乗りましたが、もともと小さくて速いクルマが好きなんですよ」

 同様のクルマを乗り継ぎ、バンドや映画にも夢中になっていた。次がスノーボードだった。

「こんなクルマじゃイカんッ!」

 雪山に行くためにオフロードタイプの4輪駆動車に換え、
それが車中泊のために広くて居住性の高いデリカ・スペースギアになったという流れがあった。

「スノボを始める直前の頃の気持ちが戻ってきて、ランエボに乗りたくなっちゃったんですね」

 しかし、ランサーエボリューションでは絶対的にスペースが足りなくなる。結婚もしていたから、いくらランサー・エボリューションが小型で速いからといって、それだけの理由では買い替えられなかった。

「走りも良くって、四駆で、荷物も積めるレグナムVR-4にしたんですよ」

妻を「ずっと乗り続けるから」と説得した。

「低い運転姿勢に戻りたくてレグナムに買い換えたんですけど、3年経つか経たないうちに、またデリカに戻っちゃいました。亀の子になっちゃうんですね」

"亀の子"とは、雪道や凹凸の大きな未舗装路で、クルマのボディの底が路面につかえてしまうことだ。最低地上高が高いデリカ・スペースギアや、パジェロのようなオフロード4輪駆動車はよほどの深雪や悪路でもない限りは亀の子にはならない。
 レグナムVR-4はステーションワゴン・ボディゆえに荷物はたくさん載ったが、ワンボックスカーとは比較にならなかった。特に、まだ小さかった子供たちのためのチャイルドシートを組み付けてしまうと、他のものが載らなくなってしまった。

4輪駆動の走破性とワンボックスの居住性


 日曜日の倉敷店には来店客がひっきりなしに訪れてくる。勝手知った常連風は工場のすぐ脇に愛車を乗り付けるし、他社からの乗り換えを検討している人は端の方にクルマを停めてショールームに入ってくる。

 テーブルを挟んで和やかにセールスマンと商談に入っている人や、展示車に乗り込んで真剣な表情でドライビングポジションを合わせている人もいる。

 水川さんは、栞ちゃんをあやしながら、この20年ぐらいの愛車歴を思い出してくれた。
同じスペースギアでも、水川さんにとってずいぶん違った2台だった。

「最初のインテリアがシンプルなのに対して、今のは豪華になっていました」

 ディーゼルだったエンジンはガソリンを選んだが、燃費自体はどちらも7km/l前後。
軽油価格の安さに助けられていた。ベンチシートの8人乗りは「バスっぽかった」ので、キャプテンシートの7人乗りに換えた。

「今の(スペースギア)の方が静かで、よく走りますね」

クルマも換わったが、水川さんの乗り方も変わったようだ。
最初のスペースギアは、一も二もなくスノーボード行きのために買ったようなものだった。もちろん、平日には通勤や日常の移動手段として乗っていたのだが、悪路走破性と車中泊のための居住性という理由が明確に存在していた。
だが、必ずしも現在、一台目と同じ心づもりで今のスペースギアに乗っているわけではない。だいいち、あれほど夢中になっていたスノーボードに出掛けなくなってしまったのだ。
昨年は子供たちを連れて2回行っただけで、今年はまだ行っていない。ほとんどが通勤に乗られている。

「どうしても、毎日の移動手段としての比重が高くなっている(役割が大きくなっている)と思います。
若い頃も移動手段であることに変わりはなかったのですけど、スノボの比重が高かった」

 当然の流れだろう。家族が増え、子供たちが成長していく過程に於いては、クルマの役割は変わっていくのだから。
 妻は仕事を始め、中学生の長女は陸上部、長男はハンドボール部の活動に忙しい。家にいる時には勉強に精を出している。好むと好まざるにかかわらず、ふだんはバラバラに行動しなければならないのが現代の家族というものなのだ。

こうして栞ちゃんが仲良く一緒に出掛けてくれるのだって、そういつまで続くわけではないのだ。

「それでも、まだ、ウチは家族単位で休日を過ごせていますよ。連休やお盆、正月などではスペースギアにみんなを乗せて旅行に行ったりしています。後席用のエアコンやDVDプレーヤーなどで、家族に快適に移動してもらいたいんです」

 スノーボード行きは自分と仲間のためだったが、水川さんは今は家族のためにスペースギアに乗っている。
水川さんが家族揃って乗るクルマとしてスペースギアに乗り続けているという想いは強く伝わってきた。

謎のガス欠

 それでも、ひとりで無性に出掛けたくなったことが数年前にあった。東京のお台場だ。等身大の機動戦士ガンダムの像が展示されることを知り、最終日に駆け付けた。土曜日の晩に出発し、ひとりで8時間運転した。

「パッと見て、写真撮って帰ってきました。運転が苦にならないタイプなんですよ。ハハハッ」

 スペースギアには大いに満足していて、
まだまだ乗り続けるという。

「ただ、燃費はちょっとキビしいかな。いま、エコ(が重視される時代)じゃないですか」

 妻はeKワゴンに乗っている。

「他に、ああいうタイプはありませんからね。もし、他(のクルマ)に換えなければならなくなったとしたらですか?」

 少し考えて、水川さんは答えた。

「デリカD:5ですね。それに小さくて速い最新のスポーツクーペと旧車もあったら理想的」

 ひとりで3台は現実的ではないが、それよりも手が届きそうで欲しいものがある。BMWのGS1200というオートバイだ。1200ccのエンジンを大型フレームに搭載したマルチパーパス車で、地球の果てまで走っていけるようなタフネスを備えている。

「パリダカール・ラリーでの活躍を知って以来、憧れています。
雑誌やWebなどを読み込んで、今は頭の中がGS一色です」

 オートバイには16歳から乗ってきて、3、4年前にいったん降りた。

「今まで岡山からあまり出たことがなかったから、オートバイで日本全国を旅してみたいんです。生身で風と向き合って、ひとりを感じられるものに乗りたい。それがオートバイ。クルマは快適だけど、ひとりで乗るものではなくなりました」

GS1200は高価だから、すぐには買えない。「買ったら一生モノで大切に乗り続けるから」と奥さんを説得しているが、
「たしか、レグナムの時も同じようなことを言っていたじゃない!?」と、まだ認められていない。

 同じワンボックス車のデリカでも、水川さんが求めるものが変わった。家族と一緒に乗ることが最大の目的となった。
家族との時間が充実しているからこそ、ひとりで駆け抜けることのできるオートバイを渇望するようになったのだ。

デリカD:5関連リンク

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