※お客様より「ナンバープレートも年月を感じる大切なシンボルなので掲載して欲しい」とのお申し出をいただき、ナンバーを掲載させて頂いております。

どの方角の大きな街に出るにもクルマで30分から1時間は掛かるような山あいの住宅地で道に迷ってしまった。
レンタカーのカーナビは指定した住所を休日で閉まっている工場内を誤って指し示すばかり。
建物や家々には住所表示プレートが掲げられていないから見当が付けられない。人に訊ねようとしても、通行人がいないからお手上げだ。
なんとか遠くに見付けた農家の軒先で作業しているお年寄りに訊いても要領を得ない。
ようやく、家が密集している区画に入っていったら、洗車している人が教えてくれた。
「友達だよ。電話してあげようか?」

三菱シャリオグランディス・スーパーエクシードに12年13万km乗っている礒山正和さんの家は、国道を逸れ丘を越えた住宅地にあった。
家はすぐにわかった。引っ越したばかりのピカピカの一軒家の前に白いシャリオグランディスが停まっていたからだ。
昔からの建物で目立つのは大きな団地ぐらいで、他の家々も新し目のものが多い。
「この辺りは、子供のいる同じぐらいの世代の家庭が多いので、暮らしやすいです。
親がちょっと留守する時には、お互いに子供を預け合ったりしています。とても、住みやすいですね」
シャリオグランディスの話を聞くために、僕が礒山さんと奥さんを独り占めしてしまったら、
それまで一緒にリビングルームにいた長男はいつの間にか隣家の友達のところに遊びに行ってしまった。
礒山さんは妻と子供たちと暮らしている。子供は、10歳、8歳、5歳の三人。
奥さんは中学校の同級生で、この地域はお互いの実家のちょうど中間ぐらいに位置しているのだそうだ。
「両親と一緒にクルマに乗ることは少ないけれど、
子供たちの送り迎えにクルマを使うのでミニバンはまだまだ必要ですよ」
地域のスポーツ少年団に入っている子供たちを交代で送迎する時には、たくさん乗せられるシャリオグランディスのようなミニバンが重宝する。
「子供がいる家は、だいたいミニバン1台プラス軽自動車1台があります」
ミニバンが子育てで重要な役割を果たしている。
自分の子供のためだけでなく、地域の子供たち全員のために親たちが手分けして子供をミニバンに乗せている。
共同体が協力して子供を育てている。礒山さんのシャリオグランディスだけでなく、
ミニバンは大切な役割を担っているのだ。
マスメディアを賑わす少子化とか地域共同体崩壊とか限界集落といったネガティブなイメージは見当たらない。
子供とミニバンがポジティブに結び付いていて、未来を向いている。

礒山さんはシャリオグランディスに乗る前、三菱RVRに6年間乗っていた。その前は、2ドアのスポーツクーペだった。
シャリオグランディスを購入したのは、
結婚して2か月後のことだった。
「ゆくゆくは子供もできて、"車内が広いクルマが必要になるだろう"と考えまして。飯島直子が、"お父ちゃん、カッコいい"というシャリオグランディスのテレビコマーシャルに影響されたのかもしれませんね。ハハハハハハッ」
そのCMだったら、僕もよく憶えている。
ピカピカの新居の前に停まっているから、12年前のシャリオグランディスは分が悪い。
全体的にはきれいなのだけれども、メッキのくすみや細かな傷跡などが目立っている。
なんとなく、どこか表情が少し違う。
「自分のクルマだとわかるように、ここに細いテープを貼ったんですよ」
あっ、テープなんだ!?
ヘッドライトに横に細く黒い線が2本走っている。
バンパー下のドライビングライトとフォグライトにも同じように2本のテープ。
そして、リアのリバースライトにも。
学校行事や休日のショッピングセンターなど、親子連れは同じような時間帯に同じような場所に出掛けることが多く、同じ色のシャリオグランディスに出くわすことも珍しくない。離れたところから素早く識別するための工夫だ。

「こっちもですよ」
礒山さんが指差したのはフロントグリルのサイドバーだ。グリル全体と二本のサイドバーにクロームメッキが施されているが、その少し奥に細い樹脂製のフィンが3本横に走っている。
「最初はこれもメッキされていたんですけど、光り過ぎているのが嫌だったので、自分で黒いテープを貼ったんです」
しっくりとキマっているので、まったく気付かなかった。

礒山さんはシャリオグランディスに自分流に手を入れている。
ルーフレールの右側後端に何かが取り付けられているのは、もう使わなくなってしまったアマチュア無線のアンテナのジョイントだ。ダッシュボード中央部分のエアコン吹き出し口に設置した無線機本体はそのままだ。

トランクスペースには、何足かの靴、仮眠用のシュラフなどに混じって、柵原町消防団と衿に入った刺し子の印半纏があった。所属している地域の消防団のものだ。
運転席の床にプラスチック製の黒いトレイが置かれている。
「仕事の関係で、いろいろな靴を履くので、靴下で運転しているんですよ」
送電設備を設置する会社に勤めているので、
絶縁長靴を履くことが多い。
それに加えて、革靴やスニーカー、作業靴などを一日の間に何回も脱ぎ履きするので靴下で運転している。
「電柱に登ったりもするので、休日はなるべくヌクいところにいたいですからね」
とは言っても、休みの日に家族で出掛ける時には決まって「お父さんのクルマで行こう!」となる。
約30kmの通勤の他、休日もシャリオグランディスを運転している。
冬は必ず雪が降る地域なので、4輪駆動は欠かせない。RVRも4輪駆動だった。
「RVRを買う時にも、フルタイム四駆の燃費の悪さと走行音の大きさを心配していたのですが、そんなことはありませんでした。このクルマも一緒で、静かなのには助かります」
路面が凍結することもある。
「"10年は乗ろう"って決めて買ったんだよね」
奥さんが当時を思い出した。

「RVRやその前のクルマも5、6年しか乗りませんでしたからね。
シャリオグランディスは、長く乗れそうな、飽きてしまう感じがしなかったことは確かですね」
「私は、RVRと違ってインテリアが上品で飽きの来ない感じがしたのをよく憶えているわね」
10年乗ろうと決めて買ったが、10年経ったからといって買い替えを検討してはいない。10歳の長男を筆頭に3人の子供を育ててきた家族の歴史とピタリと一致している。
メカニカルトラブルは一度も起きていない。リコールでは2回入庫した。
購入して1年後にガソリンタンクの補強が行われ、次にブレーキホースが交換された。
「ふだんはディーラーに行っても担当の鳥越さんにしか会いませんけど、
その時はメカニックの人から直接説明を受けました」
購入後しばらくして担当になったセールスの鳥越正志氏に礒山さん夫妻は全面的な信頼を寄せている。
「鳥越さんからは、よく電話をもらいます。点検や車検のあと確認のために、"調子はどうですか〜"とか、
新車発表やキャンペーンもあります。電話をもらうのはうれしいものですよ」
僕などは行動を妨げられる電話よりもメールの方を歓迎してしまうが礒山さんはそんなことはないと言う。
「シツコイ感じなんて全然ないですよ。こっちの望むことをすぐに理解してくれるし。
とても話しやすくて付き合いやすい。彼の人格なのかな」
それまでは車検や点検など必要最小限の用事でしかディーラーに出向くことはなかったが、今では遊びに行くような感覚でちょくちょく立ち寄っている。
「だから、新車発表の案内をもらって買うつもりはなくても、"見るだけ見せてもらおうか"って出掛けていきますね」
「買い替えることになったら、必ず鳥越さんから買ってあげたいもんね」
夫妻は、「大きな買い物をしたっばりなので、クルマはねぇ……」と笑っている。
外に出て、もう一度、クルマを見せてもらっていたら、隣家に遊びに行った長男と友達の元気な笑い声が聞こえてきた。
家庭や学校だけでなく、隣近所と地域でも手分けしながら子供を育てている様子がよくわかった。
シャリオグランディスは子供たちの送り迎えという大切な役割を担っている。
