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地元を隅々まで愛して 堀口雅之さんと三菱ギャランVR-4(1989年型 15年7万8000km)

※ナンバープレートについては、お客様のご要望に合わせた画像処理を施しています。

ラリーでの活躍に憧れて

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 よく晴れた真夏の土曜日。利根川の渡し船乗り場にギャランVR-4を停めていたら、向こうからスクーターに乗った親子が走り寄ってきた。

「VR-4じゃないですか!? 懐かしいなぁ」

 後席に乗せられた小さな男の子は当然VR-4のことを知らないだろうけど、神妙な顔付きで見詰めている。

「ディーオーエイチシー、16バルブ、インタークーラーターボ、あと4輪操舵でしたっけ?」

「そうですね」

 その人は、持ち主の堀口雅之さん(34歳)とラリーやダートトライアルの話でしばらく意気投合し、走り去っていった。

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「詳しい方でしたね」

 堀口さんは世界中のラリーで活躍するギャランVR-4に憧れ、19歳で9年5万kmの中古車を購入。以来15年間、このガンメタリックグレーのギャランVR-4に乗り続けている。

「5ナンバーのボディにハイテクが満載されているところが好きなんですよ。この頃の三菱自動車ではエンジニアが造りたいクルマを造っていたと思うんです」

 18歳で運転免許を取得した時にはすでにギャランVR-4の製造は終了していて、中古車店で購入した。買い方が珍しい。雑誌やインターネットの広告で探して買ったのではなく、自宅近くの三菱自動車の販売店に紹介してもらった中古車店で購入したのだ。

 いわゆる"業販で引いてくる"というカタチではなく、三菱自動車の販売店は好意で紹介してくれた。

「50万円ぐらいでした」

 よく見ると、リアウイングはオリジナルではなさそうだ。

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「これは(ランサー・)エボV用なんですよ。10年前にボディを全塗装した時に付け替えました。ギャラン用が手に入らなかったんです」

 さらによく見ると、スリーダイヤモンドやMITSUBISHIなどのエンブレムやステッカーなどは堀口さんの好みのものが付けられていたりしている。

「リアのMITSUBISHIエンブレムは、パジェロのエンブレムの寸法を測り希望通りの寸法だったのでパジェロ用のエンブレムを選択しました」

フロントグリルはギャランAMG用、VR-4エンブレムはレグナムVR-4用。さらに、プラグカバーはギャランAMG用。このように、堀口さんは運転して楽しむだけでなく、他車種の装飾品に付け替えた自分仕様を楽しんでいる。

「助手席に乗せてもらい、購入した販売店に向かった。

 タイヤは定期的に交換しているが、足回りは購入した時のオリジナル仕様のままだという割りには、乗り心地がいい。フラットな姿勢を保ち、静かに滑らかに走っていく。

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 エアコンを最強近くに設定しているのだが、冷気がいまひとつ冷たくなくて車内は暑い。運転する堀口さんを見ると、滝のような汗が顔面から首から垂れ落ちてきている。窓を開けた方が風が入ってくるから、まだ暑くない。

「スミマセン。エアコンの調子が良くないもので」

でも、購入してから今まで路上で停まってしまうような大きなメカトラブルは経験していない。

「頑丈のひとことです」

 不注意で道路脇の溝に前輪を落としてしまった時に、クランクプーリーを壊してしまったことがあったが、すぐに修理して事無きを得た。

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「これからやらなければならないのはエアコンと、コレですか」

 堀口さんが指差したのはシフトレバー。

「ニュートラルから1速に入りにくくなってしまったので、シフトリンケージを修理しなければならないかもしれませんね」

ディーラーマンであり、友人であり

 群馬三菱自動車販売株式会社館林店では、担当の清水利行さんが僕らを待っていてくれた。堀口さんは多い時は週に何度もここを訪れているのだという。そんなに、いったい何の用事があるのだろうか?

「仕事で使うクルマの面倒を見てもらっていることもありますが、自分のギャランのことですね。ハハハハハハッ」

 ニコニコしながら清水さんがそれに応えた。

「車検や整備などももちろんですが、堀口さんからは変わったものも頼まれるんですよ。ネッ!?」

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 変わったものとは、昔のフォントを用いたMITSUBISHIのエンブレムやミニキャブ用のステッカーなどだ。ステッカーは農協で取り扱われているミニキャブの左後ろに貼られる"営農用"と書かれた専用のものを注文された。そんなものをギャランに貼るのだろうか?

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「いえいえ、あくまでもコレクション用です。ハハハハハハッ」

 堀口さんはギャランVR-4で走るだけではなく、古いクルマも好きな人だった。

「こういうものも、たくさん集めているんですよ」

 カバンから取り出して見せてくれたのは、ギャランのカタログやパンフレットなどだ。ギャラン・ヴィエントのものは、なんと小学生の頃にこの店でもらったもの、そのものだという。

「父がヴィェントを2台乗り継ぎましたから、その頃からよくこの店には連れてきてもらっていました」

 ギャランVR-4アームド・バイ・RALLI ARTやギャランAMG type T、ギャランVR-4モンテカルロなどの珍しいものもある。

「これは、ネットオークションで買いました」

 ギャラン・スーパーヴィエントだ。

「三菱のクルマが好きで、旧車が好き。あの年代のものが大好きなんです。ハハハッ」

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 今年の7月には堀口さんはギャランVR-4のクラッチディスクをこの店で交換している のだけれども、変わったステッカーやエンブレムを注文したりする、普通とは違った顧客なのではないか?

 失礼を顧みず、ふたりに訊ねてみた。

「堀口さんって、"メンドクサイ"客なんじゃないですか?」

「ハハハハハハッ」

「ハハハッ。でも、無理難題を言うわけじゃなくて、ご本人は在庫がありそうなものと無さそうなものの違いをよくわかっていらっしゃいますから、ハイ」

「そうでしょ!?」

「堀口さんにはとても懇意にしていただいていますから、もう通常のお客様であると同時に、私などは時にクルマ好きの友達のような間柄になってしまっているような時もございまして……」

 友達、ですか?

「ええ。ディーラーマンとしては新車のカタログを出しながら"そろそろ新車をいかがですか?"と勧めながらも、同じクルマ好きの友達としては"ここまで乗り続けたのだから、走れるうちはもっと乗って欲しい。この時代の三菱のクルマに乗り続けて欲しい"という気持ちでもあるのです。そのためには万全の態勢でお応えしますから、と」

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 なんとも頼もしいではないか。言葉の通り、ショールーム裏側の駐車スペースには10年以上前のクルマが何台も入庫していたのが、その信頼の証しだろう。4ナンバーの初代パジェロも入庫していたのが珍しかった。

「古いクルマに乗って、カタログとかステッカーを集めて、これでそのうち家族でもできたらどうしよう?」

 自嘲気味に堀口さんが嘆くと、清水さんが漫才の相棒のように間髪を入れずに答えた。

「できてから考えればいいんじゃないですか。ハハハハハハッ」

 ふたりのやり取りと堀口さんの表情を見ていると、堀口さんはこのショールームに来るのが楽しくて仕方がないようだ。でも、旧車好きの堀口さんだから特別扱いされているのではないと清水さんは言う。

「インターネット時代なのに、来店して下さる方々はみなさんありがたい。ネットでクルマについて知ることはできますが、まずは見て欲しい。来ていただきたいですね」

 でも、クルマのショールームに赴くのは敷居が高いとまだ思われているのも事実だ。特に若者は来たがらないとよく聞く。

「そんなことはありませんよ。オイル交換だけでも喜んでやらせてもらっていますから。もちろん、他メーカーのクルマだって受け付けていますよ」

 販売だけでなく、クルマに関するあらゆる相談に乗ってくれるこうしたディーラーは貴重な存在だ。だから、堀口さんのブログ仲間が清水さんを紹介され、遠くから整備を受けに来ているほどだ。

創業42年のコーヒー店

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 土曜日でひっきりなしに人が訪れるのを長居して邪魔するわけにはいかないので、早々に引き上げた。

「カネコさん、屋台コーヒーって知っていますか?」

 聞いたことがない。

「この地域の名物店なので、ぜひお連れしましょう」

40分ほど走り、足利市内に入った。「CAFÉ ARAGIN」という露店に案内された。たしかに屋台だ。高校の前の歩道で42年間も営業を続けている。豆を挽き、ネルドリップで淹れたコーヒーが酷暑の下でも美味い。一杯400円。

「以前に勤めていた会社からの帰りによく寄っていましたけど、今でもコーヒーだけ飲みに来ていますよ」

 今日は、利根川の渡し乗り場、ディーラー、屋台コーヒーと案内された。こういう取材は珍しいが、とても楽しかった。どこも堀口さんが愛して止まないところだ。地元のいいものを紹介したいという堀口さんの郷土愛の現れだ。その郷土愛はギャランVR-4で育まれている。コーヒーを飲み干すと、西の空がオレンジ色に染まり始めていた。

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