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スモールビジネスを成功させるには? 北川弘さんと三菱ミニキャブトラック (2005年型 8年49万7000km)

※お客様より了承を頂戴し、ナンバープレートを隠さず掲載させて頂いております。

小口運送店を開業

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 52歳の自分にはまだ直接に関係ないはずなのに、友人や知人の中には暮らしをシフトチェンジして第2の人生を歩み始めた人の話が最近になってよく聞こえてくる。

 思い描いていた通りのセカンドライフを満喫している人もいれば、そうではない人もいるのは人の世の常で、いずれ自分もそういう局面に差し掛かる時が来るのだろう。

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 神奈川県で運送業を営む北川弘さん(72歳)は長年勤めた大手セレモニー会社を定年退職し、2002年に『北川Q便』を開業した。

「クルマを運転してアチコチ出掛けるのが好きだったから、それを仕事にしちゃったようなものです。ハハハッ」

 それだけ聞くと、なるほど遊びや趣味でやっているんだなと早合点してしまいそうだが、そうではない。北川さんなりの目算を立ててから始めたビジネスなのである。目算とは、軽トラックに乗せられる精密機械部品の輸送に限るというものだ。

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 かつての勤め先の近くに機械や自動車、鉄道などの製造工場がいくつかあり、そうした工場では資材や製品の輸送などは大手運送会社が大型トラックを使って大規模に行っていた。しかし、大型トラックを出すほどでもないが、急いで確実に届けなければならない小口輸送の需要は必ず存在しているはずだ。

 そう確信していた北川さんは三菱ミニキャブバンを購入して『北川Q便』を開業。同時に、伝手を頼って営業に赴き、それら大企業から小口輸送の契約を取り付けた。

 配送先は関東圏だけに限らず、東北や西日本にまでも足を伸ばすことがよくある。

 ミニキャブバンを選んだのは、軽ワンボックスの中で荷室が最も広かったからだ。

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 運転から経理まで社業はひとりで切り盛りしていたが、順調に仕事は増えていった。大手運送会社が取り扱わない、扱えないような小さく、少ない荷物の確実で迅速な輸送の需要が存在していることは目論見通りだったのだ。

 もう少し大きなものも運んで欲しいという顧客からの要望を受けて、2005年にミニキャブトラック・リアゲート仕様に買い換えた。

まだ8年しか乗っていないのに、もう49万7000km余りも走ってしまっている。

整理整頓と創意工夫

 キャビンの上に、導風板が取り付けてある。長距離トラックが高速道路での連続走行の際に空気抵抗を減らすために取り付けるものだから、軽トラックで付けているのは珍しい。既製品ではなく、北川さんが材木とパネル、金属パイプを加工して塗装した自作品だが、とてもキレイに仕上がっている。

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 銀色の幌は見た目よりははるかに強靭な素材が用いられていて、ちょっとやそっとのことでは破ったり裂いたりはできないだろう。荷物の出し入れは幌をめくって簡単に行えるのだが、荷台に荷物を固定して走り出す時には、セキュリティのためにある仕掛けを付け加える。ここで詳しく説明してしまっては元も子もないのでこれ以上触れないが、それも北川さんの自作だ。

 他にも荷台のパワーゲートポンプのオイルゲージの角度を見やすいように反時計方向に45度向きを変えたり、使いやすくなるような工夫がいろいろと施されてある。自作だったり、購入先の(株)井上自動車に加工してもらったりしたものばかりだ。

 何かできあいのものを買ってポンッと付けて済ませるのではなく、北川さんは自分の頭で考え、その答えを元に自分の指と手を動かして作って解決しようとする。そのDIY精神が、世界にたった一台の北川Q便スペシャルを造り上げた。

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 同じように、北川さんはミニキャブトラックの整備記録を定められた記録簿の他にもうひとつ作って手元に置いてある。画像を拡大してご覧いただきたいのだが、縦軸に入庫日とその理由、横軸に整備項目を配し、チェックマークを入れている。いつ、どんな整備を行ったかが一目瞭然だ。ちなみに、この大きな紙は使用済みカレンダーの裏である。

 自宅の一室をオフィスにしてあるので、ミニキャブトラックはまるで北川さん宅に配達に来たクルマが停まっているように見える。とても50万km近く走っているクルマには見えないほどキレイだ。細かいキズやサビのひとつやふたつ見当たりそうなものだけれども、まったくない。

「シーエス第一ですからね」

 シーエス、はて?

「顧客満足度ですよ」

 なるほど、このミニキャブトラックで顧客の元に社長自ら荷物を取りに行き、配達先に届けるわけだからキレイにしていなければ礼を失するし、信用にも関わってくる。

「キレイに保っておくということは、つねにクルマに触れているわけだから、調子の善し悪しも見付けることができますからね。実際には、このクルマは2度故障したことがあるだけで、あとは今まで不都合はありません」

 一度目は、2010年8月のオルタネーター故障。東名高速道路下り線を走行中に充電量警告灯が点灯した。中井パーキングエリアまで自走後に、迎えに来た井上自動車のキャリアカーで搬送された。

 二度目は、2013年4月のオイルポンプ故障。神奈川県伊勢原市のガソリンスタンドと川崎市の得意先で、スターターは回るがエンジンが始動しなかった。どちらもJAFのロードサービスを呼んでしのいだが、川崎からは平塚の井上自動車まではエンジンの回転を下げずに、エンストしないように自走していった。

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北川さんにミニキャブトラックのことを訊ねると、間髪を入れずに正確な答えが返ってくる。うろ憶えだったり、曖昧なところが一切ない。クルマの外観をキレイに保つことも、整備記録をわかりやすく手作りで書き直していることも、動機付けは一緒だ。整理整頓と創意工夫。すべてにキチンと目配せが行き届いている。50万km近く走っても大きなトラブルがほとんどなかったのも、北川さんのそうした性格と姿勢によるものに違いない。それは北川さんの顧客にもきっと伝わっているはずで、だから創業以来、仕事の依頼が絶えることなく東奔西走しているのだろう。

プロの安全運転の見本

助手席に乗せてもらって、近くを走った。運転にも北川さんの人柄が現れていた。

 細い路地が単線の私鉄を横切る踏み切りに差し掛かった時のことだ。一時停止した北川さんは両側の窓ガラスを開け、首を大きく左右に振って、列車が近付いて来ていないかどうか眼と耳で確かめた。いつも通っているところであっても決して疎かにすることなく安全確認を怠らない。

 ミニキャブトラックの調子がいいことは助手席からもわかった。パワートレインや足回りなどからの異音や不協和音などが聞こえず、快調そうだ。

 交差点の右左折でも北川さんの安全確認は徹底していて、とにかく首を左右に良く振り、バックミラーを覗き込んでいる。形ばかりのものではなく、つねに危険の濃淡を探りながら軽重を付けている。プロの安全運転の見本だ。

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ワイフと乾杯!

 ミニキャブトラックを購入した井上自動車に、北川さんは全幅の信頼を置いている。

「所長と工場長以下、スタッフの対応がスピーディで、仕事内容もとてもいいです」

 付き合いは35年にもなり、サラリーマン時代に乗っていたいろいろなクルマも井上自動車から購入している。

「頼りにしている工場があるから安心してクルマに乗れますね」

 整備記録を拝見したり、お話をうかがっている限り、北川さんも井上自動車も特別に手厚い整備を施しているわけではない。規定の整備マニュアルに従いながら、臨機応変に手入れを行っているだけのことのように見える。

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「ええ、特別なことはしていません。毎朝チェックするのはランプ関連とタイヤの空気圧です。積み荷によって、圧は変えていますよ」

 つくづく、軽トラックを8年間で50万kmというハイペースで仕事に使って、こんなにキレイでほとんどノートラブルというのには驚かされる。

「頑丈で良く走ってくれるので、まだまだ乗り続けますよ。明日も長野へ日帰りで行ってきますから」

 予定通りに無事に荷物を届けられたら、日帰り温泉に浸かって、リンゴを買って帰ってくるつもりだと北川さんはうれしそうに語る。

 明日の荷主は比較的最近の得意先だ。工場ごと関西に移転してしまった以前の得意先と入れ替わるようにして取引が始まった。ありがたいことに、忙しい時には注文が重なってしまうことがある。調整してなるべく応えるようにしているが、どうしても自分が行けない時には、同業の仲間を紹介したりしている。一匹狼と言っても、仲間と融通し合う時もなければならない。

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 北川さんの話を聞いていると、個人でスモールビジネスで成功させるために必要なヒントが次々に挙がってくる。ご本人はそんなつもりで話しているわけではないのだろうけれども、大切なポイントばかりだ。

 顧客から預かった積み荷を載せた軽トラックで長距離を往復するのは大変そうだけれども、北川さんはそんな素振りを見せない。顧客から自分が必要とされているのだとわかっているから、それに応えるべく緊張感とプロ意識を持ちながらも、楽しみながら働いているようにしか見えない。

 北川さんに会った2週間後にメールをもらった。

「取材を受けた10日後に、ミニキャブトラックは50万kmを越え、現在の走行距離は50万921kmとなり、ワイフと乾杯しました。エンジンオイルの減りもなく、燃費も変わりません。まだまだ行きまーす」

 北川さんの朗らかで元気な様子が眼に浮かんだ。今ごろは、どの辺を走っているのだろうか。

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