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地方に取材に出掛けると、必ず耳にするフレーズがある。
「クルマがないとこの辺では生活できませんからね」
自家用車を持っていないと、通勤通学だけでなく、日常の買い物やとっさの通院などもままならない。
確かにその通りだろう。でも、昔からそうだったわけではないはずだ。
日本に本格的なモータリゼーションが生起する1970年代以前は、今のようにみんながクルマを持つことができなかったわけだから一体どうしていたのだろうか?

「その頃は今と違っていて、バスの本数も路線の種類も多かったし、歩いて行ける範囲に店や病院などが揃っていましたから、それで生活ができていたのですよ」
福島県内の山間部で先祖代々歯科医院を開業している鈴木直樹さん(48歳)は、単なる過疎化が問題なのではなくて、その背景にある社会と経済の大きな変化が暮らしを変えているのだという。
「昔は田畑や山などで働く人が多かったから、昼間と夜間の人口差も大きくはありませんでした」
農業や林業、あるいはその周辺の産業に従事する人の割り合いが今より高かった。オフィスや工場に勤める人が増えるに従って、通勤する必要が出てきた。結果として通勤に便利な市街地に引っ越していく人が増えていく。
そうして人口が減り、高齢化に拍車が掛かっている状況に人々も手をこまねいているわけではない。自治体や地域の人々は様々な方策を打ち出してきている。
鈴木さんが開業している伊達市は「健幸都市基本構想」を打ち出した。制限速度30km/hの道路を青くペイントし、“ゾーン30”と書いてこれまで以上に歩行者と運転者双方に注意を喚起したり、市がタクシー会社と契約し、高齢者が利用しやすいオンデマンドタクシーを運行したり、山間部に住む高齢者に市の中心部の空き家になっている家を改装して引っ越してきてもらったりしている。

「私も、このクルマで患者さんのところへ往診に行っていますよ」
来院したくてもクルマを持っていなかったり、公共交通機関の停留所までも離れているような様々な理由で来院が困難な患者さんの家などに、鈴木さんは三菱トッポBJで駆け付けている。
トッポBJは往診専用車というわけではなく、現在15歳の長男・俊一君が2歳になった2001年にファミリーカーとして購入した。その頃は三菱ディアマンテに乗っていたのだが、トッポBJならばルーフが高いので乗り降りがしやすいだろうと買い足したのだ。
それから13年、トッポBJの距離計には26万7000km余りの数字が刻まれている。
他には、三菱アイミーブ、同グランディスもあり、特に使い途を分けたりせずに、妻の貴子さんも運転している。
三菱のクルマばかり3台も乗っているのに驚くのは早い。父親の代から、鈴木家ではずっと三菱車だけを乗り継いできているのだ。
「三菱自動車との付き合いは、父がギャランシグマを買ったことから始まっているのですよ」
その頃に鈴木さんが運転免許を取得し、父親は、やがてシグマをシグマハードトップに買い換えた。次にそれがギャランとなり、さらにディアマンテを2台。ランサー、ミニカエコノ、ミニカ、コルトと乗り継ぎ、現在の3台になった。合計12台。他の自動車メーカーのクルマはあまり考えたことがない。三菱のクルマのどこが魅力なのだろうか?
「どこがいいのか自分でもよくわからないんですよ。ハハハハハハッ。格好も良くないですからねぇ。ディアマンテなんて、マイナーチェンジしてかえってカッコ悪くなっていましたからね。そんなクルマが他にありますか? ハハハッ」
人懐こい笑顔で、鈴木さんはよく笑う。
「ギャランとかデリカとかコルトとか、ネーミングからしてゴツゴツして硬い感じじゃないですか。ハハハッ」
貴子さんも一緒に笑っている。
「ボディカラーにしたって、地味で暗い色ばっかり。不人気の色から塗ったとしか思えないですよね。フフフフフッ」
格好が良くないと言いつつも、そのマイナーチェンジしたディアマンテに買い換えたわけだから魅力は他の部分に感じているのだろうか?
「長く乗ってこそ、味が出ることは確かですね」
味、ですか?
「ええ。乗っていくうちに、だんだんと馴染んでいって乗りやすくなりますね、三菱のクルマは。歯医者の道具と一緒で、長く乗るということはコンディションをつねに整えておかなければなりません。長く乗りながら、ベストコンディションを保つわけです」

鈴木さんのトッポBJは白い塗装の艶がよく残っていて、13年前のクルマには見えない。しかし、左右のリアフェンダーの縁にはサビが浮いてきている。鈴木さんが自分で塗料を塗って対処したが、近付くと凸凹が目に入る。
「オプションで付けたんですけど、ほとんど使っていません」
バックドアに装着された折り畳み式の荷物台車のことだ。犬の親子のイラストが描かれたカバーが被せられた立派なもの。オプション価格5万8000円なり。
「使うたびに鍵を外さなければならないから、それが思いの他に手間が掛かるので、あまり使っていませんね」
貴子さんも目論見通りには行かなかったことを苦笑している。
「港に行って新鮮な魚を買った時にでも使ったら便利じゃないかなって注文したんですけれども、そういう時はプラスチックの箱に魚を入れて、その箱ごとルーフキャリアに積んじゃった方が便利なんですね」
大きなルーフキャリアはディアマンテに装着していたものだ。
鈴木さんのトッポBJのバックドアとリアウインドには“MARBLE”というステッカーが貼ってある。
「子供を乗せるのに便利な専用装備がマーブル仕様というオプションです。10万円でした」

MARBLEという文字と子熊が織り込まれたレースのカーテン、専用シートカバーと同じ生地のマットとクッション、蛍光灯、赤ちゃんミラー、ベビーカー固定ベルト、撥水シートカバー、オルゴールなどがセットになっている。
このマーブル仕様だけでなく、鈴木さんは他にもオプションを装備している。左右フロントドア開口部のLEDライトやハンドル下と助手席のウエルカムライト、トランクに設置するウエットバッグなど。
「ウエットバッグは2万8000円もしましたけれども、これが一番役立っていますね」
出先で、子供たちの着替えなどを濡れているものでも何でもポンポンと放り込めて、散らかることがない。
ディーラーで勧められて注文したペイントシーラントという塗装保護剤が、塗装の艶を長持ちさせている。
「艶が長持ちしているので、これは注文して良かったですね」
オプション価格の総額は憶えていないと言うけれども、車両代金と併せて支払った総額は200万円を超えていた。
「最初から長く乗るつもりでしたから、あったら便利そうなものはみんな付けました」
複数台数を所有しているのにもかかわらず、13年間で26万7000km余りも走ったという事実が、鈴木さん家族にいかにトッポBJがなくてはならない存在であるかということを物語っている。毎春、桜と一緒に写真を撮り続けるのが楽しみだ。
出先で停まってしまうようなトラブルこそ引き起こしてはいないけれども、時間と距離を重ねるに従って、傷むところも出てきた。「床に穴が開いたことがあるんですよ」

それはサビた結果なのだろうか?
「そうだと思います。シートの落ち着きが悪くなったような気がして気付きました」
「音も大きくなっていったように感じました」
ふたりとも異変に気付いていた。ディーラーである東日本三菱自動車販売株式会社の本内支店にいつものように持ち込んでみたら、床に穴が開いていた。17万kmの頃だった。すぐに板金修理した。
「一昨年に、加速しようとアクセルペダルを踏み込むとガクガクと揺すられるようになったので、すぐにディーラーの工場に入れました」
診断は、ターボチャージャーの故障だった。
もちろん、即、交換。
ヘッドライトカバーが曇って、暗くなってしまったのを交換したのが今から4年前。修理価格を伝えられた時は、思わずため息が出た。
「ラジエーターを交換したのもその頃だったかしら?」
「そうだったね。クラッチやオルタネーターも交換しているよ」
貴子さんもトッポBJを運転しているので、故障にはナーバスにならざるを得ない。
「壊れるところが、だんだんとクルマの内側に近付いてくるようになったんですね。人間だったら心臓に近付いてくるみたいで、そろそろ寿命なんじゃないかと心配になってきます」
貴子さんは心配しているが、鈴木さんはあまり気にしていないようだ。
「可愛いから、直して乗っちゃうんですよ。ハハハハハハッ」
鈴木さんはトッポBJに限らず、クルマの不調を少しでも感じるとすぐに工場に持ち込むことにしている。
「トラブルなく乗り続けるためには、それが一番大事ですからね」
そして、それができるのも工場との強い信頼関係があるからだろう。
修理だけでなく、本内店からの新車の提案や試乗なども積極的に行われている。新しいクルマが発売されると、「ちょっと乗ってみて下さい」と担当者が鈴木さんのところにデモカーでやって来る。
「パジェロも、デリカも、アイミーブだってそうやって乗せてもらいました」
喰わず嫌いだったミニバンも、グランディスに乗せてもらってみたら思いのほか運転しやすくて購入してしまったほどだ。

トッポBJで本内店に出掛けてみた。
「山の中の道を走って行きましょう」
さすがにつねに手入れを怠っていないから、とても快調だ。
「11万キロを過ぎた辺りで足回りがヘタッて来たように感じたので、ダンパーとブッシュを交換したことがあるんですよ」
乗り心地と操縦性がガラリと向上したのではないか。
「いいえ、あまり変わりませんでしたね。ハハハッ」
取り越し苦労だったのかもしれない。
山道を走って行くと、新緑が眼に眩しい。山肌を削り取って土が剥き出しになっているところが見える。
「あそこは、除染作業で出た土をまとめて置くために作られた場所です」
ここは、東日本大震災で事故を起こした原子力発電所から60km位離れているが、市の避難勧奨地域に指定された地区もある。しかし、除染作業は少しずつしか進んでいないという。

「道路脇に置かれている黒い袋も除染作業で出たものですよ」
眼の前の道端に置かれた何袋ものビニール袋の中に放射性物質を含んだ土や葉っぱなどが詰め込まれている。
「まだまだ、これからなんですよ」
国道沿いの本内店に着くと、クリーンカー福島本内店長の菅野美雪さんと販促部の岡秀樹さんが待っていた。
「菅野さんがサービスフロントに在籍していた頃からのお付き合いだから、もう何十年になるのかな」
菅野さんに、トッポBJの修理のことを訊ねてみた。
「たくさん修理をさせていただきまして、コンピュータの修理履歴が一杯になってしまうほどです」
車検や法定点検なども含めて百件以上あるという。「調子がおかしいと思ったら、すぐに持ち込む」という鈴木さんの言葉を裏付けている。
「エンジンオイルの減りが早いのが目下の悩みです。カネコさん、どうしたら良いでしょうかね?ハハハハハッ」
鈴木さんは載せ換えを真剣に検討している。エンジンのベストコンディションを保つことで、これからも乗り続けようとしているからだ。どなたか譲っても構わないという方がいらっしゃいましたら、メールを下さい。鈴木さんに紹介しますので。
