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大阪の町工場の心意気 堀口展男さんと三菱グランディス(2006年型 8年31万km) 堀口徳恵さんと三菱コルトプラス(2005年型 9年22万km)

※お客様より了承を頂戴し、ナンバープレートを隠さず掲載させて頂いております。

削り出しエルボ

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 大阪にある中小規模の工場は、もう“大阪の町工場”という立派なブランドになっている、と思う。

 高度な技術力を持ち、発注元からの困難な課題にも柔軟に対応し、日本のモノ造りを支えてきた。

 しかし最近では、日本中で製造拠点の海外流出が続き、大阪の町工場も逆風にさらされていることに変わりはない。

 だが、そんな状況に流されることなく、むしろチャンスの時代と認識しながら創意工夫とバイタリティで活路を見出している町工場の経営者に会った。

 堀口展男さん(61歳)が社長を務める野田金型有限会社は大阪府高石市市内の工業団地にある金属加工会社だ。展男さんの父親が1953年に創業し、現在は従業員11人が働いている。

 堀口さんは2006年型の三菱グランディスに新車から8年31万km乗っている。

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 経理を担当している実姉の堀口徳恵さんも三菱コルトプラスに9年22万km。展男さんの妻もコルトに乗っているという三菱一家だ。

 工場の入り口で挨拶を終え、通されたオフィスは町工場そのものだった。応接セットに腰掛けると、さっそく展男さんから金属のパイプを直角に折り曲げたようなものとピンポン玉を手渡された。

 ヒジ(elbow)の形に似ていることから、こちらの業界では「エルボ」という名称で呼ばれている。

「エルボの中にピンポン玉を入れて、一方の出口を手の平でフタして持ち上げて、もう一方の出口から玉を出してみて下さい」

 その通りにやってみると、玉は落ちてこない。密閉されて空気が玉の向こう側に入らないから、玉が落ちてこないのだ。手の平を放したら、ゆっくりと玉は抜けてきた。

「内部の断面は真円で、つなぎ目がないんですよ」

 エルボをもう一度手に取ってみる。確かに、断面は真円に見える。つなぎ目もない。折り曲げて造ったのだろうか?

「折り曲げてしまうと、歪んで真円にはならないんですね」

 なるほど、確かに真円を保つのは難しそうだ。エルボを反対側から覗き込んでも、秘密はわからない。

「チタンの塊から削っています」

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画期的な大発明

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 とても硬いチタンの塊をこんなに薄くなるまで削る労力の多大さと、それを思い付いた発想の卓抜さに驚かされた。確かに、削っていけばつなぎ目はできない。

 真円に仕上げるためには、独自に開発し、特許も取得した切削方法と工具を組み合わせることでそれを可能にした。

 つなぎ目がなく、真円のエルボは抜群の安全性と信頼性を有している。それだけではなく、他に大きなメリットがある。内部の気体や液体をスムーズに流すことができるのだ。つなぎ目に気体や液体がぶつかって乱流が発生し、流れを妨げる。妨げの悪影響は無視できず、数パーセントから場合によっては10パーセント近くの損失を発生する。

 眼の前のエルボはピンポン玉サイズだが、これが直径1メートル以上にもなるパイプライン用もある。パイプラインで送られる天然ガスなり原油なりの数パーセントといったら、莫大な量だ。その損失を防げるわけだから、画期的な技術と商品なのである。

 パイプラインだけでなく、エネルギーや航空機、医療、消防など、気体や液体をパイプを通して移動させるものならば、あらゆる分野にすぐに応用可能な商品だ。すでに日本国内特許は取得済みだ。「VECTON」(商品名)は世界32ヶ国で審査中でシンガポール・ウクライナではすでに特許査定され、更に安価な加工方法「HYBRID ELBOW」(商品名)をPCT・パリ条約にて世界に申請中だ。

 経済産業省による「第4回ものづくり日本大賞優秀賞」や「平成25年度全国発明表彰日本商工会議所会頭発明賞」をはじめ、いくつもの表彰を授かってきた。

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 さまざまな国々のさまざまな業種から引き合いが来ていると同時に、堀口さんは自ら積極的に営業活動も行っている。

 そのための大事なパートナーがグランディスなのだ。

 東は名古屋と東京、西は岡山に頻繁に出掛けている。いろいろな展示会やショーに出展する場合も、だいたい展男さんひとりでグランディスを運転して出掛けていく。各種の見本と説明パネルを積み込み、設営から撤収まですべてひとりで行う。

「東京ビッグサイトで行われる展示会などは参加企業が多いですから、周辺のホテルがすべて満室で泊れないこともあります。その時は、グランディスに車中泊ですよ。ハハハハハハッ」

 直行直帰ではなく、途中の顧客先企業に寄ったり、営業しながら往復するから8年間で31万kmも走ってしまった。

 海外へもよく出張する。2013年は32回渡航した。行き先は、アメリカ、ヨーロッパ、中国、東南アジア諸国とさまざまだ。

 アメリカやヨーロッパへ出張する時には、姪の梨絵さんが手伝うことがある。彼女はオペラ歌手で、留学経験もあって英語とドイツ語が堪能なのだ。親族一同で仕事を守り立てているところも、また大阪の町工場らしい。

 テレビでも大々的に紹介されたり、外国の企業が関心を持ち、この工場まで見に来る例も多い。すでに商談が成立し、納品を行っている企業もある。

「他の分野にも、まだまだ売り込みを続けなければなりません。これからですから、見ていて下さい」

 話をうかがっているこちらが元気付けられてしまうほど、展男さんは意気軒昂だ。独自性のある製品を開発し、その販売先を考え、文字通りグランディスに乗って東奔西走している。燃えている、という表現の方がふさわしいかもしれない。

 そして、野田金型製エルボ「VECTON」「HYBRID ELBOW」も、素人の僕が見ても「成功しないはずがない」と納得できるほど確かなものだ。そう遠くない将来の大ブレイクを想像した。

5ドアのエテルナ

 展男さんはグランディスの前はエテルナ、ディアマンテ、2台のエメロード、ギャランなどを乗り継いできた。徳恵さんは、コルトプラスの前はコルトに乗っていた。会社では、4トンと2トンのキャンターも何台か使っていた。

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 乗用車は、それぞれ10万km以上乗ってきたが、グランディスの31万kmは飛び抜けて長い。

「グランディスはヘタりが特に少なくて、別格にいいクルマやね」

 それまでの三菱のクルマは右前輪のタイヤの減りが目立つことが多かったが、グランディスにはそれがないという。

「高速道路をようけ走るけれども、車高が高いのに安定しているし、横風にも強い」

 展男さんはグランディスに全幅の信頼を置いているのがよくわかる。

 梨絵さんも東京や長野などでコンサートがある時にはグランディスを借りて出掛ける。ふだんは自分のクルマに乗っているのだが、長距離はグランディスでなければならないという。

「衣装など荷物が多いので、シートを畳むと荷室がフルフラットになるのが助かります。ものスゴくたくさん積めるんですよ。自転車を2台積んだこともありますよ」

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 公演後にそのまま運転して大阪に戻ってくるので、やはり高速道路での安定感と長距離走行での疲れの少なさを挙げるのは展男さんと変わらない。

「名車やね。こんなにいいクルマが、なぜ海外では販売されていたのに、日本国内では販売中止になったのかわからない」

 三菱自動車にはずっとデリカが製造販売されていたのに、展男さんがグランディスで初めてミニバンを選んだ理由はどこにあるのだろうか?

「ずっとセダンやったからね。昔はセダンが基本で、デリカも知っていましたけど、自分のクルマとして乗ることは考えていませんでした。でも、荷物が多いからエテルナの時はセダンのエテルナ・サヴァではなく、5ドアのエテルナにしたんですよ」

 姉弟とその妻で、三菱車ばかりを乗り継いできたのは、とても頼りになるディーラーがあるからだった。泉南三菱自動車販売株式会社岸和田東店の塚元史郎社長とは長い付き合いになる。

「ちょっとでもクルマの調子が思わしくないと、彼のところに持って行って診てもらうんですよ」

 塚元さんも、それをよく心得ている。

「車検や法定点検以外の点検や整備などでどれだけお客様のご要望にお応えできるか、ご指摘を受けたところは重点的に診させてもらっています」

 医師の問診みたいなものだ。

「細かいところも、よう診はってくれます」

 展男や徳恵さんは、出張や旅行などに出掛ける前にもグランディスやコルトプラスを塚元さんに預け、チェックを受けるようにしている。

「これからの時代は、ディーラーは新車を販売するだけではなくて、アフターサービスでどれだけお客さんを満足させられるかが課題になってきています」

 塚元さんは、クルマに関して堀口家からとても頼りにされている。徳恵さんも全幅の信頼を寄せている。

「他の工場へは出せません。他へ出したら不安。出先でパンク修理をしてもらった時にも、戻ってきて塚元さんのところにもう一度出してチェックしてもらいましたから」

コストは二の次や

 グランディスはただいま絶好調だ。助手席に乗せてもらって、一般道から高速道路を走ったが、とても30万kmを超えたクルマとは思えない。特に、エンジンとトランスミッションが新車のように静かだ。サスペンションやタイヤのバランスも取れている。

 塚元さんの工場の整備の腕前がいいことだけでなくて、日頃から堀口さんがグランディスのコンディションを気に掛けていて、少しの不具合でもすぐに手当てしていることの証しだろう。

 強いてグランディスの短所を挙げてもらうと、2列目のシートの前後と上下方向の調整幅が狭く、最適なポジションを見出しにくい点と荷室の左右幅が狭い点だった。

「タイヤハウスの張り出しが大きくて、ゴルフバッグが真横に積めないんですわ」

 ゴルフに行く時には、2列目シートを畳んでいるという。

「それ以外は完璧じゃないですかね。ウチのニーズにぴったりと合っています」

 野田金型有限会社のホームページには「無理難題、大歓迎」と大文字で掲げられている。展男さんの心意気を表している。

 野田金型製エルボ「ベクトン」は、国の委託研究開発である戦略的基盤技術高度化支援事業にも採択された。

「特許も取り、国にも認められました。でも、問題はその技術をどんな業種のどんな会社に製品として買ってもらえるかどうかです。提案力が勝負となってきます。本当に競争力のあるモノを造るには、コストは二の次や」

 展男さんは、新しい時代の“大阪の町工場”を目指している。日本でも、世界でも、製品の持つ実力と可能性で販路を切り開こうとしている。グランディスは頼れる相棒として、これからもまだまだ距離を伸ばしていくことだろう。

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