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ぼくの叔父さん 西森春彦さんと三菱ギャラン(1988年型 23年12万4000km)

※お客様より了承を頂戴し、ナンバープレートを隠さず掲載させて頂いております。

叔父さんに可愛がってもらった

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 ジャック・タチ監督の『ぼくの伯父さん』は、パリに住む“ぼく”ことジェラール少年と伯父さんユロ氏との交流を描いた1958年のフランス映画だ。伯父さんを慕うジェラールとユロ氏の日常がコメディ仕立てで描かれている。同年のアカデミー賞最優秀外国語映画賞とカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞し、今でも評価が高い。

 1958年以前のフランス車とヨーロッパのクルマがたくさん登場するという点から、クルマ好きする映画としてもカルト的な人気を博している。

 ユロ氏は、ジェラールと一緒に過ごす時間の中で、ジェラールが自然と一人前の男になっていくような振る舞い方や知恵などを反面教師的ではあるけれども授けている。近しい大人ではあるのだけれども、親とは違ったどこか非日常的な存在感を漂わせているのが伯父さんというものなのかもしれない。

 三菱ギャランに23年12万4000km乗り続けている西森春彦さん(44歳)と話していると、僕はこの映画のことを思い出した。

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 西森さんも、少年時代に西森さんの叔父さんに可愛がられていた。母親の弟さんだ。そして、クルマの原体験でも叔父さんから受けた影響が強いという。

 父親は大きなメーカーに勤めるエンジニアでいつも忙しくしている、いわゆる“昭和の仕事人間”だった。

「父親とは家族で(和歌山の)白浜の海に3、4回行ったのを憶えていますが、それよりも叔父さんがよく遊んでくれました。海にもよく連れていってもらっていたし、一緒に林にカブトムシの幼虫を掘りに行ったり、おもちゃ屋でミニカーを買ってもらったりしていました」

 叔父さんと過ごした思い出はたくさんある。

 叔父さんは最近まで三菱自動車の販売会社に40数年間勤めていた。

「勤め先に連れていってもらった時は、子供だった私の眼には当時のギャランやランサーなどが輝かしく映っていました。ですから、その頃から“自動車イコール三菱のクルマ”というイメージができ上がっていましたね」

 西森さんは叔父さんのことを話す時、とても優しく穏やかな表情になる。叔父さんに心から感謝しているのがよく伝わってくる。

ラリーの雄姿に目を見張った

 両親は運転免許を持っていなかったが、小学校高学年の頃に母親が普通免許を取得。叔父さんの世話で中古の初代ランサーを購入した。

「ランサーにまつわる自動車保険や車検、整備、修理などあらゆることを叔父に連絡して対処してもらっていました。それを見ていましたから、私も“自分がクルマを持つようになったら三菱車を選ぶことになるんだろうな”と考えていました」

 母親はランサーの後、他の親戚が勤める別の自動車メーカーのディーラーから購入したクルマに乗っていたが、急な故障で一時的にギャランΣに乗ることになる。それは叔父さんが乗っていたものだ。その次には初代ギャランΣエテルナに乗り換えた。西森さんが14歳の時のことだった。

「初代ギャランΣは都会的でスマートなデザインでしたよね。好きでした」

 僕も、初代ギャランΣはオリジナリティがあって良いデザインだと思う。シンプルでありながら独創的なインテリアも、いま見ても斬新だ。

 西森家では、その初代ギャランΣエテルナを8年間乗った。代替えすることになり、母親は新車のミニカを購入し、西森さんはいま乗っているギャランを中古で購入した。大学を卒業し、就職した1992年の秋のことだった。

 購入先は、三菱自動車工業大阪中古車センター。三菱自動車工業直営の中古車店だ。いまはもう無いが、自分の眼で選びたく、程度の良いクルマが揃っていると評判を聞いて出掛けていった。

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 5年落ちで走行距離は2万4000km。ローンを組んだ。

 歴代のギャランΣに好感を抱いていたので、それと大きく違った出で立ちのギャランを、西森さんは最初は好きになれなかった。

「ゴツゴツしているというのでしょうか」

 たしかに、スマートなギャランΣと較べてしまうと、ギャランはゴロンッとしている。

「(ギャランΣの)3代目までは都会的でキレイだったんですよね」

 しかし、その印象がガラリと変わることがあった。

「全日本ラリーを走っているギャランの写真を見たのです。“おやっ、これは全然違うぞっ!?”と印象が改まりました」

 クルマ好きの人ならば、同じような経験をしたことがあるのではないだろうか?

 地味な4ドアセダンだとばかり思っていたクルマが、ある日レースやラリーに出ることになり、改造を受けた姿のあまりの違いとそのカッコ良さにビックリする。

 造形美と最も遠いところにあると思っていたクルマが、モータースポーツのための改造を受けたら、それが偶然にも今度は機能美に直結したという例はギャラン以外にもたくさんある。

 その後、ギャランは全日本ラリー選手権に留まらず、WRC(世界ラリー選手権)にまで活躍の場を広げていくことになったので、カッコ良さはますます説得力を増していった。

「不思議なことに、ギャランが魅力的に映るようになって、“いずれ乗りたい”と思うようになっていました」

良好なコンディション

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 おそらく僕と会うので丁寧に洗車してくれていたのだろう、ギャランの白いボディが輝いている。

「ここだけ艶がなくなってクスんでしまったので、塗っておきましたよ」と、黒いドアサッシュを指差した。

 感謝しています。

 改めて見返すと、手頃な大きさの4ドアセダンだと思う。このぐらいの大きさのクルマがいまはあまりないから新鮮に感じる。

 運転席に座らさせてもらうと、眼の前に艶消しのパネルに大きな径のスピードメーターとタコメーターが並んでいる。とても見やすく機能的だ。

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 パネルの中央には“CHANGE COLOR”と記されたボタンがあって、それを押すとメーターのバックライトの色が変わるなんて知らなかった。現代のクルマの中には「アンビエントライト」などと称して10色以上に色を変える車内灯があったりするが、そのハシリだ。

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 車内もトランクもキレイに整頓されていて、西森さんのキレイ好きを伺わせている。

「頑丈で、一度も壊れたことがありません」

 軽い故障としては、エアフロウセンサーの故障と、エアコンのアイドルプーリーのシャフトが破損したぐらい。

 アルミホイールやショックアブソーバ、スプリング、マフラーなどを社外品に交換してある。

「1988年前期モデルですが、中期〜後期仕様に見えるように外観の純正パーツを交換してあります」

 助手席に乗せてもらい、近くを走った。26年前のクルマとは思えないほど、車内は静かだ。故障していなくても、昔のクルマはいろいろなところから不整な雑音が混じり合って聞こえてくるものだが、ほとんどないのは驚きだ。西森さんの丁寧な運転操作が強く作用しているのではないか。

「古いクルマですから、大きな負荷を掛けるような運転はしないようにしていますね」

 やっぱり!

海外のカタログ

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 自宅に戻り、カタログコレクションを見せてもらった。ヨーロッパを中心とした各国別のギャランや三菱車のカタログが丁寧にファイリングされている。ミニカーもある。

 オランダ人コレクターと交換して入手したものがほとんどだ。

「インターネットオークションのeBay(イーベイ)で、オーストラリア人からギャランのミニカーを買ったら、“MITSUBISHIのファンなのか?”とメールが来て、そうだと返信したらオランダ人のコレクターを紹介してくれたんです」

 西森さんは、代りに自分が持っている日本仕様のカタログやミニカーやグッズなどを送ってあげている。

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「国によって、同じクルマでも仕様や呼び名が違っていて面白いですね」

 年に3〜4回、交換している。これも、人とのつながりだ。

 この5年ほど、それまでと較べてギャランに乗る機会が減り、それに従って走行距離も伸びていない。実家の両親の入院が続き、週末毎に新幹線で帰省していたり、仕事が多忙になったからだ。

「ギャランに乗り続けていることで、いろいろな人との出会いがありました」

 思慕と感謝を寄せるのは叔父さんに対してだけでなく、西森さんは友人や知人へも同じ気持ちを抱いている。人とのつながりをとても大切にする人なのだ。

「ギャランに乗り続けているのは、叔父とのつながり、叔父への恩返しでもあるとも思っています」

 ギャランが快調なことは助手席に乗せてもらってわかった。この調子で、まだまだ走り続けられるだろう。

「クルマに乗るのを止めようかと考えたこともあります」

 40歳も過ぎれば、人生いろいろありますよ、西森さん。あちこち故障するとか、修理するにもパーツが入手できないとか、クルマを維持するのに苦心する人は多いけれども、反対にクルマは快調なのに距離が伸びていないのは珍しいし、もったいない。乗らないから、この3年間で2回もバッテリーを交換しなければならなかった。引っ越しでもして境遇を変えて、もっとギャランに乗る機会を増やしてみたらどうだろう。

 嬉しいことに、西森さんは、最近、叔父さんの子供、つまり従兄弟の結婚式に招待された。家族以外で招待されたのは西森さんだけだったので感激した。つながりのたまものだ。

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