※お客様より了承を頂戴し、ナンバープレートを隠さず掲載させて頂いております。

日本有数の避暑地として知られる長野県軽井沢町は東京から150kmほど離れているのにもかかわらず、実は東京のように便利な暮らしが送れる。
上信越自動車道が伸びて碓氷軽井沢インターチェンジが設けられ、長野(現在は北陸と呼ばれる)新幹線が開通して交通の便が飛躍的に向上し、別荘族の他に通年で軽井沢に定住する人たちが増えた。速い新幹線ならば70分足らずで東京駅まで行けてしまう。
大型スーパーマーケットには地元長野や群馬の新鮮なものが並ぶのは当然のこと、輸入食材や惣菜類なども都内のデパ地下並みに充実している。
複数のホームセンターやレンタルビデオショップは昔から営業しているし、駅前にはアウトレットまである。都内のほとんどのところよりも買い物で困ることはないのではないか。量だけでなく質も充実しているところが軽井沢らしい。

「田舎だけど田舎じゃないんですね」
2010年に都内から移住してきた久保田芳郎さん(65歳)と妻の桂さんは、三菱ランサーエボリューションGT-Aに10年5万4000km乗り続けている。
「インターネット通販を活用しているので、買い物はさらに便利になっています。ここにも、早ければ注文から24時間以内に届きますからね」
ここに移住して来る前から、夫婦で全国のあちこちを旅して楽しんでいた。中でも、冬の軽井沢が好きで、万平ホテルに良く泊まっていた。
60歳で勤めていた会社を退職。以前に土地だけを購入しておいたこの地に家を建てた。
「自然の中に暮らしたかったんですね」
都内の自宅もそのまま残してあって、法事や同窓会などの集まりのためにときどき帰京している。
軽井沢の家を建てる時には、もっぱらエボ7GT-Aで通っていた。
「パワーがあって、4輪駆動だから高速走行が楽ですね」
上信越自動車道は藤岡で関越自動車から分岐する起点から下り線はずっと登り勾配が続く。最後の松井田妙義インターから碓氷軽井沢インターの間が特に急だ。高速道路を降りてからも、上りコーナーが連続する和美峠は過酷。冬ならば雪が降るし、路面が凍結する可能性も高い。
東京と軽井沢を頻繁に往復するのだから、いつも同じ条件下で走れるとは限らない。悪天候の時だって、渋滞の時だってあったはずだ。自分の体調が思わしくない時もあっただろうし、夜間に走らざるを得なかった時もあっただろう。
そうした時にこそクルマの真価が問われるわけで、「楽ですね」という久保田さんの褒め言葉にはとても重みがある。
エボ7GT-Aは、10年前に中古車情報誌で見付け、東京の関東三菱自動車販売クリーンカー田無で購入した。1万8983km走った中古車で、車両価格224万7000円、支払い総額271万8000円だった。
GT-Aはオートマチックトランスミッションを搭載している。エボの中では珍しい。ネイビーブルーという濃紺のボディカラーも珍しいし、その上、オプションの大きなリアウイングが付いているのも珍しい。
「同じ組み合わせのクルマにすれ違ったことがありません」

なぜ、マニュアルトランスミッション付きの“GSR”あるいは“RS”を選ばず、GT-Aを選んだのか?
「妻の希望もありまして、オートマにしました」
芳郎さんは優しい夫だ。
「渋滞とかでマニュアルが面倒臭くなってきちゃったんだよね」
妻の桂さんが補足する。
芳郎さんは運転免許を取ってから10台のクルマに乗ってきていて、すべてスポーツタイプの日本車に乗ってきた。エボ7GT-A以外はすべて2ドアだった。現在は、近所で乗るためのオフロード4輪駆動の軽自動車も持っている。
これまで乗ってきたクルマは製造メーカーもまちまちで、三菱のクルマではギャランFTO GⅢに乗っていたことがある。
「当時勤めていた会社の先輩のフィアンセが三菱自動車の営業職で、その方から新車で購入しました」
エボのライバルであるクルマも購入候補だったが、ディーラーで試乗したら乗り心地が硬過ぎて候補から外れた。
エボ7GT-Aは気に入ったので、見に行った一週間後に契約した。
「私はスタイルがハンサムでスマートなところが好きですね。他のクルマと違って、直線基調のボディラインがいい」
夫婦ともども、エボ7GT-Aは気に入っている。
「いいクルマですよ。いいクルマだから10年乗ったのでしょうね」
東京との往復の他、旅行に行く時はエボ7GT-Aを用いている。温泉巡りは特に好きで、日帰りでも泊まり掛けでも出掛けている。

今は行っていないが、以前はエボ7GT-Aで出掛ける時には必ず桂さんと一緒に撮っていた画像が90カットもある。
「90枚も撮っていたなんて、バカですよね。フフフッ」
そうおっしゃる桂さんだが、画像を拝見すると楽しそうだ。ぜひ、ここに一緒に紹介させていただきたいのだけれども、お許しいただけませんでした。

芳郎さんは完全に引退したので、のんびりと毎日を送っている。
「雪が融けた4月から11月は、雨が降っていなければふたりで毎日、森の中を5kmから10kmウォーキングしています」

図書館で本を借りてきて読んだり、キノコを栽培したり。エボ7GT-Aのミニカーも少しずつ集め、先日は同じ濃紺のものをインターネットオークションで手に入れた。
余計なお世話かもしれないけれど、退屈しないのだろうか。
「ハハハ、そうかもしれないですね。昨年、町役場で募集していた猿の追い払い臨時職員に応募してみましたけれど、不合格でした」
本当にノンビリと暮らしているようだ。
「キジが鳴いていますね」
エボ7GT-Aを車庫から出してもらった時、近くでキジの鳴き声がした。
「あれはフキノトウですよ」
助手席に乗せてもらって、付近を走っている時に道路脇の植え込みに芽を出していたのを見付けて僕に教えてくれた。
森の中に住んでいるからだからなのだろうか、季節の移り変わりを敏感に体感されているようだ。街に生まれて街で暮らしている僕には、いわゆる花鳥風月は最も苦手とするところだ。

森の中に停まっているエボ7GT-Aの濃紺のボディは雨粒を弾き、輝きを放っている。ドアを開けると、シフトレバーの付け根部分やエアコン吹き出し口、ドアレバーの付け根部分などのパネルがボディと同じ紺色でコーディネイトされているのがお洒落だ。
表通りに出てスピードを上げて走ると、エボにしてはソフトな乗り心地が印象的だ。マニュアルトランスミッション付きの歴代エボには、どうしてもモータースポーツのイメージが付きまとってしまうが、GT-Aにはそれがない。小型で速い4ドアセダンに乗っている感覚しかない。
久保田さんのエボ7GT-Aの助手席に乗せてもらって、僕がランサーエボリューションというクルマに抱いていたイメージの幅が広がった。モータースポーツイメージに囚われ過ぎることなく、外観は控え目に、インテリアには彩りを添えたエボがあってもいい。久保田さんは実に渋く賢い選択をされたと思う。

そう思うと、三菱自動車の現在のラインナップにGT-Aが存在しないことや、同じようなクルマが他社にもないことが悔やまれて来る。上質でありながら、小型で速い4ドアセダンは汎用性に優れて使いやすいはずなのだが。
「私が乗り続けている理由も、その点にあります。仮に乗り換えようと思っても、現在では同じようなスポーツタイプのクルマがありませんからね」
強いて言えばと前置きして挙げてもらった不満点は、最小回転半径が大きなことと燃費だった。
「これまでの平均燃費は8.9km/Lで、カタログ上の10・15モード値の8.3km/Lよりも良いのですが、街中だけだと6km/L台に落ちてしまいます」
久保田さんはすべての給油記録をパソコンで管理しているから、燃費値もスラスラと出てくる。
「燃費があまり良くないのにガソリンタンク容量が48リッターと小さなことと、残り10リッターで警告灯が点くのも早過ぎるところが不満です。場合によっては無給油で東京往復できないこともあるからです」
コンディションも良好で、これまでトラブルもない。霧が出ることがよくあるので、フォグライトを黄色に換え、社外品のカーナビを取り付け、フロントスピーカーを交換してある。
スタッドレスタイヤへの履き替えやエンジンオイル、オイルフィルターなどの交換などは、すべて自宅で自分で行っている。

お客様ご本人から提供いただきました
「時間がありますからね」
乗り換えることなど考えてもいない様子だが、僕がアウトランダーPHEVのことに触れるとふたりとも興味がありそうだった。アウトランダーPHEVは、ガソリン満タンでバッテリーを満充電にしておけば、平均的な一般家庭で使う約10日分の電気を賄えられ、電化製品を動かすことに使える。
「大雪や台風で電線が切れて停電することが何度もありました」
別荘地なので復旧作業が後回しにされて、3日間も停電していたこともあった。久保田さんの家はオール電化住宅だから、停電は命取りになる。
「東京に住んでいた時には考えもしていませんでした。ここでは、衣食住とガソリンなどあらゆるものに備えが必要になりますね」
昨年2月に関東地方を襲った大雪の時には、雪掻きされて道路脇に積み上がった雪の小山をどけてエボ7GT-Aを道路に出すのに、ふたりで4時間も掛かったほどだ。
森の生活では、楽しんでばかりもいられない。それでも、季節の移り変わりを感じながら、時にはエボ7GT-Aで温泉巡りをする第二の人生は羨ましい。おふたりの暮らしぶりに濃紺のエボ7GT-Aはとても良く似合っていた。
