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北海道の礼文島に勤務している陸上自衛官、野口正人さん(47歳)が三菱エアトレックに13年19万km以上乗り続けているというので、会いに行ってきた。
礼文島は北海道のほぼ最北部に位置していて、訪れるためには稚内港からフェリーに乗らなければならない。羽田発稚内行きの飛行機はまだ一日一便しかないから、野口さんと会う前日に赴き、ホテルで一泊。
翌朝のフェリーに乗り、島で野口さんに会い、フェリーで稚内に戻って来ると羽田便はとうに出発した後になるので、もう一泊という行程だった。
たくさんのグループツアー客とともに乗船し、約2時間で島に着いた。
ターミナルに降りると、出迎えの人々の先頭で野口さんは待っていてくれた。前もってメールで伝えてくれた通り、赤いジャケットにカモフラージュパターンのバンダナを頭に巻いている。

外に出ると、風が冷たく、強く吹いている。エアトレックで迎えに来てくれた野口さんも、それが島の特徴だと教えてくれた。
「クルマを外に停めておくと、強い風で直径1〜2センチの小石が飛ばされてきて、傷を付けられます。このクルマもそうですよ」
そう言って、エアトレックのボディ側面左側を指差した。塗装面が小さく削れている。
直径1〜2センチの小石が飛んで来るだなんて信じられない。どれだけ強烈な風なのだろう。
「傷がボディの下地にまで達して、サビてくることもありますからね」
風で注意しなければならないのは小石だけではない。ドアの開閉もだ。風が強い時に、クルマから降りようとして不用意にドアを開けると、強い風にドアが持って行かれてしまい、最悪の場合にドアヒンジを壊してしまう。
「風向きを考えてドアを開けなければなりません」
強い風にドアを持って行かれてしまったことは僕も以前に経験したことがあるけれども、ドアヒンジを壊すほど強い風が半ば恒常的に吹いているとは過酷な環境だ。
風に吹き飛ばされてしまうから雪は高くは積もらず、代わりに猛吹雪になる。
「まったく前が見えなくなりますから、クルマを運転できなくなります」
そのために、山の上にある勤務地と官舎の間はそれほど距離があるわけでもないのに、マイクロバスでの通勤となっている。だから、礼文島に来てからエアトレックの走行距離は少ししか伸びていない。
礼文島に赴任する前に勤務していた静岡の駐屯地への通勤が往復50kmほどあって、その時に距離が伸びた。

野口さんは僕をエアトレックに乗せて、島を案内してくれた。まずはフェリー乗り場から海岸沿いを南へ向かい、海に面した丘に上がった。「北のカナリアたち」という映画撮影用に造られたセットの校舎がそのまま残されている。

海は澄み渡り、岩や海藻などが手に取るように透けて見える。こんなに透明な海は見たことがない。
幹線道路でも通行量は少ないのだけれども、急いでいるのかエアトレックを追い越して行くクルマもいる。野口さんはミラーを良く見ていて、そうした素振りを見せるクルマが接近して来ると、すかさず左にウインカーを出して少し寄せ、追い越させている。周囲のクルマをとてもよく見て、注意を払っている。コミュニケーションに優れた、非常に模範的な運転だ。
運転そのものも、すべての操作が非常に滑らかだから助手席に乗っていて快適だ。エンジン音が静かなのも印象的だった。

来た道を引き返し、今度は北上した。フェリー乗り場を通り過ごし、しばらく北上してから西へ折れて峠を越えると久種湖が見えてくる。青い空に新緑が映え、山の上には微かな残雪が見える。最果ての島では、風だけではなくあらゆる自然が人間を圧倒している。
船泊湾を見下ろす、トド島展望台に登った。船泊湾の向こう側の金田ノ岬までクッキリと見渡せる。
「いい天気で良かったです」
天気は変わりやすく、低気圧が近付くと風と波が強まり、フェリーも欠航してしまう。
「私も低気圧にはドキドキさせられることがあります」
礼文島に単身赴任してきているので、野口さんは年に4回、家族が暮らす神奈川県に帰省している。その時に合わせ、車検や定期点検などを行うようにして、フェリーにエアトレックを乗せ、稚内三菱自動車稚内本店に持ち込んでいる。
実は、野口さんの礼文島勤務は2回目。最初は1989年から94年までの5年間だった。今回は、2013年から単身赴任してきている。
「私は礼文島が好きなので、再度の勤務を希望したのです」
どこに魅力を感じるのだろうか?
「何もないところです」
もちろん、"何もない"はレトリックに過ぎず、島には素晴らしい自然がある。海と島の絶景、ここにしかない草木や花、美味しい海産物等々。
不便か不便でないかは人によって感じ方が違うだろうけれども、インターネットはあるし、通販サイトでの買い物も「ほぼ4日後」には届くそうだ。全国ネットのテレビ番組はすべて視聴することもできるから、情報面で決定的に不足するものは特にない。
引っ越してきてずっと住み続けるには強い覚悟が要るだろうけれども、ある一定期間住むのはとても魅力的だと思う。僕が同じ立場だったら、間違いなく同じように手を挙げるだろう。


最も北に位置するスコトン(須古頓)岬にも連れて行ってもらった。さらに北に浮かぶトド島がよく見える。
時間が早く、広い駐車場には観光バスはまだ来ていないが、シックな内外装デザインの土産物店はもう営業を始めていた。タコやウニ、ホッケなどの加工品を売っている。この島で造られたものは全部買って帰りたくなる。
自宅にもお邪魔した。官舎入り口の扉のガラス窓が塩で白っ茶けている。
部屋にはグリーン地のカモフラージュパターンのジャケットとシャツが干してあった。ファッションではなくて本物だ。
写真立ての中には、6歳と4歳になる子供たちと奥さんが収まっている。エアトレックは、結婚する前の月に三菱RVRスポーツギアの代わりに購入した。
「RVRが維持できなくなったりしたわけでも、嫌になってしまったわけでもなかったんですけれどね」
結婚が決まった男は駆け込むようにクルマを買い替える。そういう例を僕も身近に何人も知っていますよと、二人で笑った。
「そうかもしれませんね。ハハハハハハッ」
RVRスポーツギアや、ここに赴任して来るまでのエアトレックではスキーやスキューバダイビングに良く通っていた。礼文島の海は透き通っているけれども、水温が低過ぎて一般的ではないらしい。
前述の通り通勤もクルマではないし、エアトレックを運転するのは週に2、3回だ。一か月の走行距離は200km前後だが、家族の元に帰る時などは100km走らないこともある。
「使い勝手はとてもいいクルマですよ。我が家の使い途に良く合っています」

子供たちがまだ小さかった頃、奥さんがリヤシートでオムツを交換する際にも、作業しやすかった。トランクに置いたカバンを取り出しやすいシートの高さや後席全体の居住空間も十分ある。
「クセがなくて運転しやすく、疲れないところが気に入っています。不満点はありませんが、あと少しだけ小回りが効いて、燃費がもう少し良ければ言うことはありませんね」
燃費は平均で11km/L。RVRスポーツギアは10km/Lだった。
故障も二度、経験している。走行7万km時点で、エンジン内部のピストンリングが固着した。エンジンオイルが減っていることをガソリンスタンドで指摘され、1リットル注入したがオイル残量警告灯が点灯した。調べたら、ピストンリングが固着してオイルが燃えてしまっていたことがわかった。
この時は購入した販売店で、保証期間内ということでエンジンごと交換した。
昨年は、右フロントブレーキのピストンが固着してブレーキが効かなくなった。
「ブレーキを踏んで、ペダルが戻って来る感じがしなかったのでおかしいなと思ったら、右の前輪からスゴい振動が起こってきました。なんとかフェリーに乗せて修理に出そうかとか考えましたが、とてもそこまで走れる感じがしませんでした」
ホイールに手をかざしただけで高熱を発しているのが感じられるほどで、島の修理工場で修理してもらった。
「ブレーキオイルが焦げ茶色の古いグリスにようになっていて、ピストンが動かなくなっていました」
ディスクとパッドに問題はなく、左右両側のピストンなどを交換して直った。約3万円の出費だった。
昨年の車検時にはサビ止めのシャシーブラックを下回り全体に塗った。スリーダイヤモンドのエンブレムが取れてなくなってしまったフロントグリルも黒く塗った。
スパークプラグは2年ごとの点検で交換し、タイミングベルトやブレーキホースなども一度交換している。

「ヘッドライトカバーの曇りをなんとかしたいですね」
ヘッドライト自体は一昨年にHID電球が切れた。交換しようとしたが、HID電球が固着してしまって外れず、ハロゲン電球に変えた。いろいろなものが固着してしまうのは、やはり島の潮風の厳しさに由来しているのだろうか。
「定期的な異動でこの島を出るまでは乗り続けるつもりです。ショックアブソーバーのヘタリもないので、島を出ても乗り続けるかもしれません」
クルマにとって過酷な自然を考えると、とても新しいクルマに買い替えることなんて考えられないとも言う。
仕事ではパジェロベースの73式改という自衛隊専用車や以前のジープなど4輪駆動車によく乗っているので、自分のクルマも4輪駆動車しか考えられない。
「4輪駆動の持つ安心感は他には変えられません」
最初の礼文島での勤務生活で厳しい自然を体験したことによって、4輪駆動への信頼が高まった。だから、もしエアトレックを乗り換えるのだとしたら、断然、三菱アウトランダーPHEVを選ぶという。
「東京モーターショーで発表された時から気になっていました。発電しながら2モーターで走り、プロペラシャフトが存在せずに後輪はモーターだけで駆動されるというコンセプトが実際にどう作動するのかを想像してワクワクしました。クルマのメカニズムに興味があるので、アウトランダーPHEVには惹かれています」
実は、野口さんは礼文島に二度目の勤務が決まった際、アウトランダーPHEVを注文してキャンセルしていた。
「申し訳なかったです。でも、買いたい気持ちは変わっていません」
充電のための太陽光パネルまで自宅に設置したのだから本気だった。
「通勤の往きを電気主体で走り、帰りはエンジン主体で走るのがいいのか。それともその逆がいいのか、いろいろと想像しています」
今も、その楽しい想像は続いている。
「三菱自動車のホームページにアクセスして、オプションには何を付けようかなんて考えて楽しんでいますよ。ボディカラーを決めるのは子供たちなのかもしれませんけれどもね。ハハハッ」
この島での勤務は原則として3年で交代することになっているので、あと1年だ。野口さんはエアトレックに満足しつつも、家族とともにアウトランダーPHEVに乗る日が来ることを想っている。
