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サービスマンとの共同作品 鈴木康典さんと三菱ギャラン・ヴィエント(1990年型 25年58万km)

両親のための4ドアセダン

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 三菱ギャラン・ヴィエントに58万km以上も乗り続けている人に会うために、岐阜に行ってきた。

 ギャラン・ヴィエントなら、知人が買ったのでよく憶えている。納車を待っている時に、「もうじき納車なんですよね」と嬉しそうにカタログを見せてくれた。

 待ち合わせ場所の岐阜羽島駅の改札に、持ち主の鈴木康典さん(53歳)はこちらが見付けやすいようにとラリーアートの赤いキャップを被って待っていてくれた。

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 さっそく、駅前に停めた白いヴィエントの助手席に乗せてもらって、市内を目指した。

 たしか、この型のギャランではハイテク満載の「VR-4」が一世を風靡していたはずだけれども、あえてヴィエントを選ぶのがシブい。

 鈴木さんは小型車を2台乗り継いで、25年前にこのヴィエントに乗り換えた。4月が来ると26年にもなる。

「結婚して、お互いの両親を後席に乗せることが増えたので、大人4人が落ち付いて乗れるセダンが欲しくなったんですね。マイナーチェンジが施されたヴィエントを街中で眼にして、そのスタイルに惹かれました」

 当時はバブル景気絶頂期で、日本の自動車メーカーも競うようにして豪華で高性能な4ドアセダンを開発し、販売していた。

「VR-4のスゴさは知っていましたけれど、ヴィエントは安かったんですよ。定価162万円で、ディーラーではそこから値引きしてくれたので助かりました」

 当時、鈴木さんは電気メーカーにエンジニアとして勤務していた。それから往復50km以上の通勤を23年間続けた。最後の5年間は往復9kmに短縮されたけれども、通勤距離の長さが58万kmも距離を伸ばした基礎となっている。

信号青でも左右を確認

 街に向かう途中、何度も信号のある交差点を過ぎてきたが、たとえ目の前の信号が青でも交差する道路を越える時には必ず首を左右に振って安全を確認している。

「いま追突されたら、古いクルマだからもう直せないと思うので、余計に慎重になっています」

 今までに赤信号で停車していた時に追突されそうになったことが3回もあるというから驚いてしまう。前も後ろもキチンと確認を怠らない人なのだ。

 着いた先は、中部三菱自動車販売株式会社岐阜中央店。ここで鈴木さんはヴィエントの面倒を見てもらっている。購入したのは、ここではない岐阜西店。

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 紹介されたのが、サービススタッフの高橋満也さんと営業スタッフの大野円香さん。高橋さんには、ヴィエントを買って3年目から担当してもらっているから、もう22年もメンテナンスを任せている。長い付き合いだ。

「私が20歳の頃からこのクルマを担当させていただいていますから、ともに育ってきたようなものですね」

 若く見えるけれども、高橋さんは41歳。国家1級自動車整備士の資格を持つ三菱技能資格1級サービスエンジニアだ。

「このクルマがここまで走り続けることができているのも、高橋さんのおかげです。彼が面倒を見てくれていなかったら、乗り続けられなかったでしょう。高橋さんにやってもらってこそ、です」

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 鈴木さんは、高橋さんに全幅の信頼を置いている。だから、筆者をまずここに連れて来たのだ。

 ヴィエントを巡っては、もうひとりショールームで待ってくれている人がいた。横井宏昭さんだ。横井さんは「スゴいヴィエントがいますから、カネコさん取材に来て下さい」と筆者にメールをくれた人だ。ここのディーラーの元サービスマンで、高橋さんの同僚。

 3人は、昨年10月の「MMF 2015」(Mitsubishi Motors Fun)で会った。

「その時に、鈴木さんが"このクルマは高橋さんとの共同作品のようなものですよ"とおっしゃって、その言葉に感激してカネコさんにメールしたのですよ」

 それはありがとうございます。ライター冥利に尽きます。

エンジン絶好調

 鈴木さんが高橋さんを信奉する理由は、どこにあるのか?

「何かの整備を行う場合にも、必ず事前に様々な方法を提案してくれてから取り掛かってくれます。例えば、おカネを掛けたくないタイミングだったら、2回に分けて行うとかです」

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 筆者も経験があるが、クルマの整備ではなるべく無駄を排したい。使えるパーツは、なるべく最後まで使い切りたい。しかし、整備のためにはクルマを預けなければならないから、その二度手間も避けたい。本末転倒になっても意味がない。肝心 なのは、サービスマンが整備内容と見積もりを面倒臭がらずにユーザーに伝え、ユーザーが何を望んでいるかを把握しながら作業を行ってくれるかだ。

「あと、長年の付き合いで、私の好みを熟知してくれているのもありがたいですね。ヴィエントには速さ一辺倒のクルマではなく、快適性を損なわない速さを求めているのです。そこを高橋さんはしっかりと押さえてくれています」

 持ち上げられてばかりの高橋さんは少々居心地が悪そうにしているが、冷静に大切なことを口にした。

「鈴木さんは、キチンとタイミングを守ってくださるので助かります。オイル交換を5000kmごと、オイルフィルターを1万kmごと、タイミングベルトを7万kmごとに定期的に行ってくれますから、こちらはそれを目安に整備と点検のスケジュールを想定すればいいので仕事がしやすいですし、無駄もありません」

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 緊急な措置が必要な整備以外は、5000kmごとのオイル交換時に一緒に行うようにしてくれている。鈴木さんから申し出がなくても、オイル交換時にはヴィエントをリフトで持ち上げるから、その際に下回りをチェックする。

「早め早めに対処すれば、消耗も最小限で済みますし、故障も未然に回避できます」

 サービスマンに全面的に依存するのではなく、自分でもできることをして補い合って維持している。

 今までに起こった故障やトラブルは少なくない。最も大規模なのは16年38万kmの頃に行ったエンジンのオーバーホールだ。岐阜西店で行った。当時は、高橋さんはそちらに勤務していた。

 ピストンリングとバルブステムシールを交換し、シリンダーの段付き修正とポート研磨も一緒に行った。

「生まれ変わったように絶好調になりました」

 エンジンは好調を続けているが、目下の最大の課題はボディ各部分のサビだ。穴が開くほどサビていた左右リヤ ドアのステップ部分を2004年に50万円の費用を掛けて大修理を行った。高橋さんのところではなく、板金修理は専門技術を要するので、地元のボディショップに依頼した。

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「そのショップの先代社長はこだわりの人で、ヴィエントにスポット溶接を多めに入れてくれました。完成後に初めて走った時に、ボディ剛性がスゴく上がっていたのがうれしかったですね」

 費用は嵩んだが、とても満足の行く仕上がりだった。しかし、内部からのサビを完全に防ぐことができず悩まされている。

「溶接後のサビ止め、塗装が不十分であったことが原因と見ています」

D.I.Y.

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 天気が良いので、高橋さんから教わった近くの金華山ドライブウェイを走ってみた。山道は細いのでペースは上げられないが、ヴィエントは快調に登っていく。なるほど、エンジンは快調そうだ。ノイズの少なさは25年前のクルマとは思えない。

 駐車場にヴィエントを止めて、3人で改めて眺めてみた。

「マイナーチェンジ前は、テールライトユニットの幅が狭かったんですけれども、このクルマは広いんです。こっちが好きです」

 ギャランVR-4は4輪駆動だけれども、ヴィエントは前輪駆動だ。

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「リヤデフが存在せず、VR-4と床の形状が違うので、その分トランク容量が大きいんですよ」

 VR-4と直接的に比較はできなかったが、それでもヴィエントのトランクは広大だ。

「ただ広いだけではなくて、このように開口部が広いから使いやすいんですね」

 最近はあまり出掛けなくなってしまったが、鈴木さんは妻の真由美さんと友人達とで冬はヴィエントでスキーによく通っていた。その際に、この広くて、荷物を出し入れしやすいトランクが重宝した。

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「ホイール付きのスタッドレスタイヤ4本をスッポリと収めることができますからね」

 ヴィエントで目立つのは、運転席のシート背もたれのツギ当てだ。

「乗り降りで擦れて破れ、中のスポンジがポロポロ落ちてくるようになっちゃっていましたからね。自分で革を手芸店で買ってきて、縫いました。革は専用の針と糸でないと縫えないんですよ」

 カントリージャケットの肘当てのようにサマになっている。フロアマットの穴も、鈴木さんはシート下の見えないところを切ってきて、ツギ当てして手当てした。

 他にも、左リヤクオーターウインドからの雨漏りをガラスを外して防水テープを貼って直したり、鈴木さんは自分でもヴィエントの保守に務めている。

サビとのいたちごっこ

 岐阜名物、更科の「たぬきそば」をいただき、ヴィエントで鈴木さんの自宅に向かった。味が濃いツユなのに、後が不思議とサッパリとしている。

 鈴木さんはボランティアでNPO団体が主催する音楽イベントを写真撮影している。

「もしかして、車速センサーが故障していて、エンジンがハンチングを起こしていませんか?」

 後席で黙っていた横井さんが、いきなりといった感じで指摘してきた。

「そうみたいなんですよ。1回転4パルスは認識しているみたいなんですけれどね」

 さすが横井さんは一級整備士だけあって、後席からエンジンの不整を言い当てた。電気の専門的な知識のやり取りが始まったが、専門的過ぎて筆者には付いて行けない。

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 鈴木さんのお宅のガレージには真由美さんのパジェロ・イオが停まっていた。17年23万kmと、こちらも愛着を込めて乗られている。

「パジェロ・イオは運転姿勢が私に合っていて、腰痛にならずにラクなんです」

 ヴィエントで出掛けたスキーや旅行の写真が丁寧にアルバムに整理されていたのを見せてもらった。アルバムには、写真と一緒に飛行機の搭乗券やフェリーの乗船券などが貼り込まれ、説明書きも丁寧に加えられていて、見ていて楽しくなってくる。スキーブーム華やかなりし頃のスキーウエアが時代を表していて懐かしい。

「この平湯温泉というスキー場には、よく通いました」

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 定宿にしていた民宿の主人が、ヴィエントの上に降り積もった雪を溶かすために、よく温泉の湯をホースで掛けてくれていた。

「それが、いま悩んでいるサビの最も強い原因だったんじゃないでしょうか? 当時は、一発で雪が溶けてくれてうれしかったんですけれど、考えてみれば温泉には硫黄が大量に含まれているわけですから、それがボディ内部の細かなところに入り込んでサビさせてしまっているのではないでしょうかね?」

 たしかにそうかもしれない……。

 タブレットPCに収められた、デジタル画像をテレビに大写しにして次々と見せてもらった。50万円の板金修理の記録は圧巻だ。それだけに、サビの再発生が悔やまれる。

「お互いの両親からは、"もし壊れたらどうするんだ。早く買い換えろ"と催促されています」

 両親を乗せるために買ったのがヴィエントだった。長野、石川、伊勢志摩と、あちこち連れて行った。

「親を乗せて、長距離を快適に走ってくれました。意外と速いし、意外と乗り心地も良く、いいクルマを買ったという満足感は大きいです。買い替えを催促されていますけれども、まだまだ乗り続けますよ」

 サビの進行さえ喰い止めることができれば、高橋さんという強力な味方がいることだし、自分で直せるところもある。両親の心配ももっともだけれども、ここが踏ん張りどころかもしれない。

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