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2019.04.22

埼玉県

古いクルマは手を掛けるほど調子良くなっていく

谷澤大祐さんと
三菱360バン(1968年型)

019YEARS

距離不明

※お客様より了承を頂戴し、ナンバープレートを隠さず掲載させて頂いております。

三菱の軽自動車の元祖

三菱自動車から新型軽自動車「eKワゴン」と「eKクロス」が発売された。
ニュースリリースには、「新たな開発・生産プロセスのもと、プラットフォーム、エンジン、CVTといった主要コンポーネンツを刷新した新しい軽ハイトワゴンです。三菱自動車の約60年にわたる軽自動車づくりのノウハウが込められています」と記されている。
個人的には、ハイブリッドパワートレインとACCや車線維持機能の仕上がり具合が気になっている。パワートレインの電動化と運転支援技術という最先端の技術トレンドが軽自動車でどれだけ有効に機能しているのか試乗してみたい。
最新の軽自動車である「eKワゴン」のことを考えていたら、その元祖とも言える「三菱360」のライトバンに乗っている人が埼玉県にいると紹介され、さっそく会いに行ってきた。 お宅へ伺う道中、自問自答した。

「三菱360のライトバンを最後に見たのはいつだっただろう?」
「その姿を、いま頭の中にイメージできるか?」

いずれの問いにも釈然としないまま、教えてもらった住所の近くまで来たら、道路の奥にこちらに顔を向けた可愛らしいクルマが停まっているのが見えた。

「あれに間違いない!」

小さなボディサイズと愛らしい丸いヘッドライトは昔の軽自動車の特徴だ。
谷澤大祐さん(46歳)は、この三菱360ライトバンを1999年に購入して、乗り続けている。勤めている会社には電車で通っているから毎日乗るわけではないけれども、50年前のクルマだからといって猫っ可愛がりせずに日常的に乗っている。

「クルマは、“乗ってナンボ”です。自分で直しながら、それを楽しんで乗っていますけれども、けっこう乗るときはハードに乗っていますよ」

ちょうど、これからキャンプに行く子供たちを送っていくところだった。中学3年生と小学6年生の子供たちも、このクルマのことを「トロ」と呼んで親しんでいる。トロとは、走るスピードが遅く、“トロい”からということで、妻が名付けた。
妻は自分のクルマに乗っているのだが、谷澤さんが360ライトバンに乗り続けていることには理解があって、結婚前の交際中の頃から修理を手伝ってくれていたりした。

谷澤さんご提供

懐かしい2ストロークエンジン

三菱360ライトバンは、排気量359ccの空冷2気筒エンジンをフロントに搭載し、後輪を駆動している。エンジンは2ストロークだ。現代では、オートバイ用でも少なくなりつつある2ストロークエンジンを採用しているところが時代を感じさせる。このクルマだけでなく、360cc時代の軽自動車には、2ストロークエンジンを採用するものは少なくなかった。

現代のメインストリームである4ストロークエンジンに対して、2ストロークは構造をシンプルかつ軽量に造ることができるから、ベーシックなクルマやオートバイに用いられてきた。反面、排ガスのクリーン化が難しく、近年では急速に廃れてきている。

2ストロークといえば、谷澤さんは、このクルマの前に乗っていた3台が、すべて360ccの2ストロークエンジンを積んだ軽自動車ばかりという、かなりマニアックな人なのだ。
三菱360ライトバンを2台乗り継ぐ前は、他メーカーの軽自動車2台を乗った。2ストロークの360ccエンジンをリヤに搭載する軽自動車の世代違いだった。

「その前は、2ストロークエンジンのスポーツバイクに乗って峠に走りに行っていました」

独特のカン高い排気音と白い排ガスを吐き出しながら加速していく2ストロークのスポーツバイクはどこの峠でも見掛けたものだった。
18歳の時に、友人が乗っていた軽自動車を譲り受けたのが最初のクルマだった。

「そのクルマはエンジンが調子が悪かったのですが、自分で点火時期をズラしてみたら、一転して調子が良くなりました。あれが私の原点だったのかもしれませんね」

原点というのは、古いクルマを直しながら乗ること、直す過程も楽しみながら乗るという現在の谷澤さんの姿の始まりだ。

「人からも訊ねられますし、自分でも思いますが、クルマを直しながら乗るのが好きなんですね。直すプロセスが好き。直すためには調べることも必要で、詳しい人に教えてもらったり、インターネットで調べたりして、答えを探っていくのも好きなんです」

最初に乗った2台のリアエンジンの軽自動車は直したり、改造したり、散々といじり尽くしたらしい。そんな時に、1台目の三菱360ライトバンに出会った。アルバイトをしていたガソリンスタンドで、給油しに来た三菱360ライトバンと出会った。

凝った造形

「カタチにビビッと来ました。実用的な軽のライトバンなのに、後輪が少しフェンダーに覆われていたりして、凝っているんです」

ボディのサイドパネルに前後方向に強い一本のプレスラインが貫かれていたり、パネルの下の端が内側に微かに織り込まれていたり、たしかによく見ると凝った造形が施されている。僕がハッとさせられたのは、シンプルでありながらも、ボディカラーとコーディネイトされて、シートが水色なのだ。商用車として造られたのに、遊び心がある。反対に、前方に開くドアはデザインのためではなく、乗り降りしやすい実用性を考慮した結果なのだろう。

アルバイト学生だった谷澤さんは持ち主に話し掛け、最終的に譲ってもらうことになった。持ち主だった谷内浩一さんとはその後も付き合いが続き、現在も仲が良い。

「谷内さんはこの近くでカフェを経営しているので、行ってみませんか?」

ぜひ、と助手席に乗せてもらい連れて行ってもらった。

「このME24というエンジンはいいエンジンですね。高回転型ではありませんが、トルクがたっぷり出ているので、街中をこうして走る時でも良く粘るんですよ。ホラ、ここから加速するんです」

30km/h以下のスピードなのに、ノッキングも起こさずに、3速のままで加速していったのには驚かされた。

アンティーク・カフェ

「谷内さんは、クルマの“師匠”なんですよ」

谷内さんの「さとや」というカフェは、流行りの古民家のようだが建物は新築で、内装の部材のあちこちに古民家で使われていた木材が使われている。心地良い空間で、大きなガラス窓の向こうにはクルマが2台とオートバイが置かれている。その他、店内にはいろいろなアンティーク小物や家具などが置かれていて、見ていて飽きない。
谷澤さんは、谷内さんに譲ってもらった三菱360ライトバンを2年乗った。

「整備されていたので自分で直すこともなく、車検を一回受けました」

イベントにも一回出た。その後、インターネットオークションに出品されていた三菱360ライトバンを見付け、購入した。

「画像も良くなかったこともあって、期待せずにパーツ取り用と考えていました。でも、実物を見たら、コンディションが良かったのにびっくりしました」

それが、この三菱360ライトバンだ。パーツ取り用と思っていたクルマに、もう19年も乗り続けている。

「もうペットや家族の一員のような存在です」

さきほど会った子供たちは、どちらが助手席に座るのか、いつもジャンケンで争っていると聞いた通りだ。

ちょっとした手入れで劇的に改善

19年間にはトラブルもたくさんあったのだろう。直すのが楽しいのだから、トラブルと感じなかったのかもしれないが、あちこちと手を入れられながら乗られてきたことは想像できる。
僕がそう思っていることを谷澤さんは察してくれたようだった。

「中でも一番やっかいだったのはブレーキのマスターシリンダーでした。自分でもやってみましたが、最終的には後藤技研さんという会社に助けられました。このクルマの購入代金よりも高い修理代が掛かってしまいましたけれども。ハハハハハハッ」

前述の通り、2ストロークのエンジンはシンプルであるがゆえに、ちょっとした手入れがコンディションの劇的な改善に直結することがあるのだという。

「シリンダー内部やピストンなどを磨いたり、削ったりすると、エンジンは見違えるほど調子良く回るようになりました」

どこをどうイジればどうなるか、ほぼ把握しているようだ。

「古いクルマは、手を掛ければ掛けるほど調子良くなっていくものです。それは今までの4台について当てはまります。今後、どこか調子を崩すことがあっても、手を掛ければ必ず良くなるものだと思っています」

笑みを絶やさず、つねに優しい表情の谷澤さんだが、この部分にはきっぱりと確信を込めて語っていた。

「三菱乗りだから、譲って」と友人の家から譲ってもらったスクーター「シルバーピジョン」も谷澤さんは大切にしている。

三菱360ライトバンは快調なので、しばらくこのままの状態で乗り続けていくつもりだ。

「手を入れるとすれば、剥がれ掛かってきている天井を張り直すことですか」

ボディのサビは、進み具合を見極めながらそのつど直していくつもりだ。

「クルマは言葉を発しないけれども、絶対にウソは付かないんです」

谷澤さんは三菱360へ絶対的な信頼を寄せているのだけれども、それは自らが徹底して手を入れていることが担保となっている。そこまでクルマと強固な信頼関係を築いているのは羨ましい限りだ。

新しいeKワゴンやeKクロスは現代のクルマだから、オーナー自らがそこまで手を入れる必要はないし、その余地もない。共通するのは「三菱の軽自動車である」というだけで、あとは何から何までも違っている。50年分の進化と変化の大きさに感心させられるばかりだった。

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