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2018.08

東京都

必ず直って帰ってくるから愛おしい

白石人美さんと
三菱スタリオンGSR-Ⅲ(1985年型)

016YEARS

094,000KM

※お客様より了承を頂戴し、ナンバープレートを隠さず掲載させて頂いております。

有名女優が乗っていた

街で珍しいクルマに出会って心がときめくのは子供の頃から変わらない。
すれ違ったり、先行されてしまったらどうしようもないけれども、その三菱スタリオンは路肩に停まっていた。
スタリオンは今では珍しくなった。今ではほとんど眼にすることがない。

自分のクルマをその先に停め、スタリオンのドライバーに話し掛けてみた。
近寄っていくと、リトラクタブルヘッドライトが懐かしい。
こんなに小ぶりだったのか。

スマートフォンを手にしていたドライバーは女性で、僕が近付くとサイドウインドを下ろし、気さくに応じてくれた。それによると、このスタリオンには15年以上乗り続けていて、自身は二人目のオーナーになるという。

「最初のオーナーは、女優の剣 幸(つるぎ みゆき)なんですよ」

剣 幸といえば、宝塚歌劇団出身で舞台や映像などで活躍している有名女優ではないか!
驚くと同時に、あのような女優さんがスタリオンに乗っていたことにもビックリした。

「私は現在、剣のマネージメントを行なっています」

女性ドライバーは、そう言って名刺をくれた。剣 幸をはじめとする俳優をマネージメントする事務所の代表を務める白石人美さんがスタリオンのオーナーだった。

その時はお互いに次の予定があったので、日を改めてスタリオンを見せてもらった。

「もらったクルマなのに、可愛くて仕方がないんです」

身近な人に乗ってもらいたい

白石さんは2002年に剣 幸さんから、このスタリオンを譲り受けた。
剣さんもスタリオンを気に入って乗っていたのだが、フットブレーキを踏んで減速中にエンジンが止まって再始動しなくなるトラブルが3回続き、乗り続けるのが少し不安になったからだ。

「良かったら、乗る?」

自分が乗り続けられなくても、身近で誰かに乗り続けてもらいたかったのだ。

「学生の頃からクルマが欲しかったし、剣が気に入って乗り続けていることも良く知っていたので、喜んで譲ってもらいました」

宝塚歌劇団は兵庫県・宝塚市にある。創立104年の歴史を誇り、未婚の女性だけで構成された歌劇団として知らない者はいないほど有名だ。老若男女が楽しめるミュージカルやレビューを上演している。歌劇団出身の女優も数多い。

スタリオンは剣さんが在団中に購入し、10年間は宝塚市で乗られていた。自宅から歌劇団への往復3kmしか乗っていなかったので、走行距離は10年間で3万kmにも満たなかった。メーターに刻まれている現在の走行距離は15万4000kmあまり。

宝塚地域は1995年の阪神・淡路大震災に見舞われ、剣さんが暮らしていたマンションは半壊。スタリオンをしばらく駐車場から出せなかった時期もあった。
剣さんが歌劇団を退団し、独立して東京で女優活動を始めるにあたって、スタリオンも持ってきて、自分で運転して出掛けていた。それだけ、剣さんはスタリオンを運転することを気に入っていたのだ。

なんという幸運

しかし、白石さんが譲り受けて乗るには大きな問題があった。住んでいたマンションの駐車場に空きがなかったのだ。

「駐車場を確保できないので諦めます」

譲ってもらったとしても、仕事に使うつもりだったので、自宅から離れた場所の駐車場では意味がない。
乗り続けることを断念し、業者を手配して廃車手数料も振り込んで、引き取りを依頼した。

「そうしたら、その引き取りの日の前日に、マンションの管理人さんから空きが出た連絡が来たんです」

なんという幸運だろう。二人して喜んだ。以来、スタリオンは白石さんのクルマとなった。白石さんの所有となっても、白石さんは仕事にスタリオンを使うから、剣さんも乗ることに変わりはない。

俳優の送迎や舞台や撮影に関係する、様々な大きなものも運んでいる。この間は、椅子を何脚か運んだ。
白石さんが引き継いでも、スタリオンはトラブル続きだった。
最初は、やはり運転中のエンジン停止、再始動不能だった。レッカーサービスのトラックで関東三菱自動車販売株式会社 新宿店に運び込まれた。

カムシャフトの焦げ付きが原因だと三菱のメカニックは教えてくれた。しかし、パーツがないので修理は断られてしまった。

「“インターネットで探せば手に入るかも”とも教えてくれたので、“スタリオン カムシャフト”で検索してみました」

たどり着いたのが、スタリオンマニアのSNSのページだった。
そのマニアは東京の隣の埼玉県在住の男性だった。親切にも、マニア同士のつながりの中から、カムシャフトを譲ってくれる人を探し出し、交渉までしてくれた。譲ってくれたのは、遠く秋田県在住のマニアだった。
マニアというのはどこまでも親切なもので、埼玉のマニアはカムシャフトを組み込んでもらうための古い三菱車のスペシャルショップ「シリウス」までも紹介してくれ、修理が完了した後に確認もしてくれた。
排他的なマニアがいると思えば、この埼玉の男性のように優しく親切なマニアもいるのである。

目下の課題

「初めてシリウスに伺った時のことは良く憶えています。スタリオンが2台に、昔のギャランとかランサーとか、見憶えのある三菱のクルマが入庫していて、こんなに昔の三菱のクルマに乗り続けている人がいるんだと、仲間に会えたようで頼もしく感じました」

続いてスタリオンを襲ったのは、エアコンの故障と水温の異常上昇。どちらも、「シリウス」で修理してもらった。
アイドリングの不整もあった。

「赤信号で止まったりすると、ドッドッドッと揺れるんです」

ブレーキオイルが漏れるのは三菱のディーラーで直した。

「年に一度、何かしら大きな故障が最初の5年間は続きました」

その都度、シリウスや三菱のディーラーで修理してもらっている。

「直すと、また別のところが壊れるのですけれど、必ず直って帰ってくるから愛おしいです。スタリオンには悪いけれど、“デキの悪い子ほど愛おしい”という例えがそのまま当てはまりますね」

最近では、ウインカーやハザードランプなどが点滅しなくなったり、メーターナセルが緩んでガタガタいうようになった。
時々、リトラクタブルヘッドライトが下がらなくなる症状やエンジンオイル漏れなども発生した。それらは車検と一緒にシリウスで対策してもらった。代車は三菱ミニカだった。
白石さんにとってのスタリオンは、まるで小さな子供やペットのようなものなのかもしれない。

目下の課題は、昨年から発生している雨漏りだ。雨に降られると、右側のリヤシートが湿ってくる。テールゲートのゴムパッキンを交換したが、完治していない。
茶色のインテリアはとてもお洒落だが、天井のビニールに縦に長い破れ目が入っているのが残念だ。

「ああ、これについては“修理対策をウチから提案させてください”と三菱から言われています」

以前は、古いクルマを見付けたら新車に買い換えることを熱心に勧めていたが、このように、積極的に修理でもビジネスを展開していくようになった。大変だろうが、その方が最終的にはディーラーにもメーカーにも好結果をもたらすことになるのではないかと僕は思う。

クルマとは壊れたら直して乗るもの

それにしても、スタリオンのインテリアは魅力的だ。茶色を基調としたカラーコーディネーションは上品かつ表情豊かで、シートの表皮のタッチも心地良い。後席は、高級家具のようにシートと側壁を同じ素材でカーブを付けて繋げている。
そして、ただ豪華に仕上げているだけでなく、未来志向も備えているところがカッコいい。それが最も良く現れているのが、メーターパネルだ。針を備えた、オーソドックスなメーターが一つもない。スピードはデジタル数字で、エンジン回転数はバーグラフで表示している。同時代のクルマにも同じようなメーターを採用していたものもあったが、今ではほとんど思い浮かばない。

「メーターの表示が、時々、ヒューンという音とともに消えてしまうことがありますけど、手でバンッと叩くと元に戻ります。フフフフフフッ」

表示はデジタルだけれども、作動はあくまでアナログなのである。

古くなると動かなくなってしまうことが多い時計も動いているし、三菱電機製のDIATONEブランドのカーオーディオもすべて機能している。ラジオは時々切れ掛かることがあるけれども、カセットテープデッキは動いているというから驚きだ。

「修理に出した時に貸してくれる代車やレンタカーなどに乗ると、スタリオンが古いクルマだということを実感させられますね」

当たり前のことだが、加速のスムーズさ、ブレーキの効き具合、軽いステアリング、ドライビングポジションの高さと見晴らしの良さなど、すべて現代のクルマが優っている。

「ですから、なるべく屋根のあるところに駐車して、1日の始まりにはゆっくりと走り出すようにして、労っています」

俳優を送迎するので、遅刻は厳禁だ。だから、白石さんは初めての劇場やスタジオに向かう時には、前の日の同じ時間には必ず予行演習をして所要時間を確認しておくのだという。だったら、スタリオンには乗らないで、壊れるリスクの低い現代のクルマで送迎すれば良いのではないか?

「剣の想いを引き継いで乗っているので、簡単には手放したくありません。なんとか乗り続けたいです」

白石さんも以前は劇団に所属する舞台女優で、マネージャーに転じてからはずっと剣さんを支えてきた。二人が所属していたオフィスが解散してしまい、剣さんをサポートし続けるために設立したのが、現在の会社だ。それだけ、二人の絆は強いのだ。
プライベートにも使っていて、僕が路上で声を掛けた時は週に一度ある父親の通院の送迎途中だったそうだ。
両親を乗せて、東京から300km北にある新潟まで出掛けたこともあった。新潟には、公演にも乗って行ったことがある。

「こういうカクカクした形のクルマって、最近はありませんよね?」

白石さんの“カクカク好み”は昔から変わらない。

「確かに、最近のクルマよりも故障は多いでしょうし、これからまた別のところが壊れるかもしれません。でも、私にとって初めてのクルマなので、クルマというのは壊れたら直して乗るものだとしか知らないのです。幸いなことに、教えてくれたり、直してくれる人がいたので、乗り続けることができていることに大いに感謝しています。修理代も掛かっていますが、それが高いとも安いとも言えません」

白石さんはきっぱりと言い切った。同感だ。新しいクルマならば故障は少ないだろうけれども、それがどうしたというのだろう。好きなクルマに乗り続けられる幸せほど尊いものはない。それが愛情というものではないだろうか。
スタリオンで走っていると、最近は海外からの旅行者と思われる人たちがサムアップしてくれたり、写真を撮られることが増えたそうだ。スタリオンを見ると、やはりみんな心ときめくのだ。

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