EV・パワートレインシステム技術部 太田 仁一

「EVで走りたい」という声に応えたい

お客様の声から生まれた、EVプライオリティモード

新しいアウトランダーPHEVでは、エンジンをかけずに継続してEV走行ができるEVプライオリティモードを搭載しています。この機能を開発したきっかけはヨーロッパや日本のお客様から「EVで走りたいのに加速するとエンジンが始動してしまう」、「暖房を点けるとエンジンが始動してしまう」といった声をいただいたことにあります。PHEVシステム開発において、当初は、EVでは性能が足りない部分を補うためにエンジンを使用することを考えていました。
たとえば、EV走行時に出力が足りないときは、エンジンを始動して出力を補うように設計をしています。

しかし、お客様の声に耳を傾けると、性能を補うことよりEVで走り続けること望んでいることが分かりました。このようなEV走行で走る気持ち良さを知っていただいているお客様の声をフィードバックし、EVプライオリティモードは誕生しました。

クルマが選択するのではなく、お客様が選択できること

ヨーロッパでは、日本よりも強い加速を多用するため、「エンジンが始動してしまう」との指摘が多数寄せられていました。ここで問題だったのは、どこまでアクセルを踏込めばエンジンが始動するのか分かりにくいことでした。アクセルを深く踏み込んでもエンジンが始動しないようにするとともに、EV走行時の走行性能を向上させる必要があると考えました。

また、日本のお客様からは「夜間はエンジンをかけずに静かに出ていきたい」という声がも多くありました。こちらの問題は、冬場にパワースイッチをONにして暖房を点けると、すぐにエンジンが始動してしまうことがあるためでした。PHEVも、一般のガソリン車と同様に暖房にエンジンの排熱を利用しています。そのため暖房を点けるとエンジンがかかってしまう場合があるのです。そこで今回の改良では、これらを改善するために工夫を施しました。

EVプライオリティモードによって、エンジンの始動を許可するか禁止するか、お客様がボタンひとつで決められるようになりました。これまではクルマが選択していたものを、お客様の意志で選択できるようになった点は大きいと思います。

お客様の声を実現するために開発を見直した

改良の初期段階ではエンジンが始動したらキャンセルする機能を想定し開発を進めていました。しかし、もう一度お客様からいただいた声を確認し、我々としてもご満足いただけるレベルにするために開発を再度見直しました。ここでも走行性能や暖房性能を優先するかEV走行の継続を優先するかで意見が分かれたため、ヨーロッパまで確認に行きました。結果、PHEVのあるべき姿として、アクセルを踏みすぎても暖房を点けても最初からエンジンが始動しない仕組みにする必要があるとの答えに行き着きました。EVプライオリティモードを選択しておけば、エンジンが始動するのは電池が無くなったときくらいです。それ以外ではEV走行が途切れないようにしています。

EV走行で航続距離を伸ばすテクニック

EVは電力を消費して熱を作ります。暖房は消費電力が大きいので、シートヒーターやステアリングヒーターを使うことで、消費電力が抑えられ、航続距離を減らさずに済みます。また、アクセルを深く踏み込んでスピードを出し過ぎないことも航続距離を伸ばすテクニックのひとつです。EVはガソリン車やディーゼル車と違い、常に効率が良いので、空気抵抗の影響を強く受けます。高速で走って空気抵抗が増えるとその分電力消費が増え航続距離が短くなります。

他には、寒い時期のドライブの場合、EV走行のみでは走り切れない距離と分かっていれば、最初にエンジンをかけて室内が十分に暖まってから、後でEVプライオリティモードを選択して走るとエンジンの排熱が利用できるため効率良く走れます。

「電力の続く限りEV走行ができる楽しさ」を味わってほしい

アウトランダーPHEVはEVならではの応答性の良さが特長です。また、PHEVでありながら、
EV走行で60kmもの航続距離を有するのは、世界的に見てもまだまだ少ないです。普段の通勤時は電気のみで走行し、週末にレジャーで遠出する場合にはガソリンとの併用で長距離ドライブも楽しめます。さらにチャージモードを使えば発電することもできるので、キャンプはもちろん災害時の非常用電力としても便利です。

また、ガソリンの採掘から走行で消費するところまでで比較すると、EVは圧倒的にCO2の排出量が少ないため、地球温暖化対策にも貢献できます。そして今回、お客様の意志で走行モードが選べるEVプライオリティモードを追加しました。これまであった良い点も含め、電力の続く限りエンジンを始動することなくEV走行ができる楽しさを、ぜひ体験していただきたいと思います。

●EVプライオリティモード選択時でも条件によってはエンジンが始動する場合があります。
●暖房の能力が必要な場合は解除してください。
●駆動用バッテリー残量が低下すると使用できません。